207 夏の風物詩⑤

「ススタケさんっ、勘弁してくださいよ」


 さすがにシオサイが居た堪れない様子だったのでかわいそうになり、ヨワは少しだけ話の矛先をずらした。


「ススタケさんとリンもレースに出るの?」

「いや俺はヨワの護衛が――」

「おうよ。勝負しようぜヨワ。俺たちに勝てたら俺はシオサイを認める」

「勝手に話進めないでくださいよ!」

「なんだよ。選手としてレース出たほうが護衛もしやすいだろ?」


 ススタケがそう言ったとたんリンは大人しくなった。納得した顔だ。任務さえ果たせるならボードレースに出場することは問題視していないあたり本当に騎士バカだ。


「でもススタケさんが出場したらみんなに顔が知られて、今後庭番の仕事がやりづらくなるんじゃないですか」


 シオサイの言うことはもっともだった。王族の出場を国民は一番の楽しみにしている。今年は誰が出るのか注目しない者はいない。一般国民のヨワやシオサイとは比べものにならないくらい目立つだろう。しかしススタケは顔の前で大きく手を振っていやいや、と言った。


「王族としてなんか出るもんか。今年はスオウ兄貴とススドイ兄貴が出るんじゃないか? 王子たちは留学してるし、ソヒは断固拒否だろうな。あいつノリ悪いから」


 ソヒと聞いて最悪の記憶が閃光のように瞬き、ヨワはぎゅっと目をつむり頭を振った。ヨワ、と声をかけられ顔を上げるとリンが不思議そうに見ていた。せつな、過去に囚われ締めつけられた胸がみるみる楽になる。ヨワが微笑むとリンも笑い返してくれた。


「結局ヨワはどうする? ボードレース出るか?」


 天敵はいないと聞いたし、庭番の仲間が出るなら楽しめそうだ。なによりそこにはリンがいる。一度くらい思いきり日差しに焼かれて水しぶきを浴びてみたい。


「やってみようかな」

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