第7章 水上ボードレース

203 夏の風物詩①

 七月に入ってヨワの日常は少し忙しくなった。復職したロハ先生の心身を支えながら秋にひかえている論文発表の手伝いのため、指示された資料を掻き集めたり有識者に面会の約束を取りつけたりと方々駆け回る。その姿を見てリンは「はじめて大学教授の助手って大変なんだなと思った」と言った。これでも普段からいろいろと気を回しているというのに失礼である。

 これは毎年のことなので慣れていることではあったが、ロハ先生の注文に加えて庭番のススタケからの呼び出しが増えた。この時期からコリコの樹も秋の実りの準備をはじめるらしく、多くのエネルギーが実のほうへ奪われるそうだ。そうすると弱っている部分から劣化がさらに進んでいく。強い日差しに長時間さらされる夏はただでさえ体力を消耗しやすい。負担を少しでも減らすために、できるだけクリスタルに魔力を注いでほしいということだった。

 ヨワは昼休みに、中央図書館へ資料を借りるついでにクリスタルの間へ通った。最近ではそこで昼食をとるのが日課になっている。サンドイッチを頬張りながらなんとなくクリスタルを見ていたヨワは、光の輝き方の変化に気づいてくぐもった声を上げた。


「ススタケさん。なんかクリスタルがぼんやりチカチカしてる」

「んん?」


 大きなホットドッグにかじりついたところだったススタケも同じようなこもった驚きの声をもらした。急いでパンを飲み込んで「ちょっと待ってろ」と言い、ススタケは木肌に手をついて目を閉じた。


「疲れたからちょっと寄りかかるって。魔法で支えてやってくれるか?」

「はーい」


 コリコの樹と交信したススタケに応えてヨワはクリスタルに向けて魔法を練り上げた。いっそう鈍い輝きを増したクリスタルの青が部屋中に反射して海の底にいるようだった。唐突にススタケが笑った。

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