173 氷屋夫婦②
改めてコリコの花を注意深く観察したポポイはパームとうなずき合った。
「だいじょうぶ。きれいに保存できると思います」
その言葉にヨワは心底喜んだ。
「そ、そんな花にお前、そこまでする必要ないだろ」
ヨワが見るとリンはやっぱり地面に向かって話している。その横でおもしろがっているのかユカシイがにやにやと笑っていた。リンの様子は確かにおかしい。けれど、とびきり好きというわけでもない花にここまで惹かれてしまう自分もおかしいとヨワは思った。
押し花にするのは嫌だった。できるならみずみずしく香るままいつまでも手元に置いていたい。コリコの花に限らず物に対してそう思ったのははじめてだった。
「そうかもね。自分でもよくわからない。でもこの花を見つけた時、私自然と笑ってた。この花を見るとやさしい気持ちになれるの」
リンはついに背を向けて離れた。なにがそんなに気に食わないのか。少しの怒りと寂しさを感じたがヨワはリンを無視して、ポポイにコリコの花を渡した。
「この水は抜いてしまって構いませんか」
ヨワがうなずくとポポイはビンのコルクを抜いて口を手で押さえ、慎重に傾けながら水をこぼした。
ヨワにも覚えがある。人の魔法にかかっているものに自分の魔法をかけようとするとうまく効かないのだ。一度、ユカシイの魅了の魔法にかけられたカラスが扉に激突して爪が挟まったことがあった。暴れるカラスを浮遊の魔法で助けようとしたがヨワはまったく手応えを感じなかった。
ポポイはコルクをしっかり閉めるとビンを両手で包み込むように持ち、目を閉じた。するとビンの表面が底のほうから上へ徐々に白く染まりはじめた。心なしかしおれていた花びらの先までしゃんと張っていく。
細く息をついてポポイは目を開けた。
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