172 氷屋夫婦①
そんな状況になっているとは露知らず、一件以来大学が休講になったこともあり庭番の元へ入り浸るようになったヨワがポロリと氷屋のことを話したら、ススタケがあっという間に若夫婦と会う約束まで取りつけてくれた。やはり持つべきものは権力のある仲間だ。
話はススタケを介して聞いているだろうがヨワは改めて若夫婦にあいさつし、友人のユカシイとリンを紹介した。
「氷屋を営むパームです。こっちは妻のポポイです」
「みなさんよろしくお願いします」
「氷屋って?」
ひとりその名に聞き覚えがないのはリンだった。ユカシイの訳知り顔を見るところ、彼女はヨワを尾行していたから大体の経緯はわかっている様子だ。
氷屋の主人パームがリンに簡単な説明をした。
「僕たちは氷の魔法で物の風化を止めることができるんです。僕たちに声をかけてくれたということはなにか保存したいものがあるんですね?」
ヨワはパームの前に透明な小ビンに入ったコリコの花を差し出した。入院中、ヨワが使っていたベッド脇のナイトテーブルにいつの間にか置いてあったものだ。「げ!」突然そんな声が聞こえて振り返るとリンが体ごとそっぽを向いていた。ヨワが凝視すると逃げるようにうつむく。わけがわからないが失礼な態度だ。
「まあ、コリコの花! まだこんなにきれいに残っているなんて」
ポポイがにこやかに言う。満開に咲き誇り真っ白に城下町を彩っていたコリコの花びらは、風に運ばれてもう見る影もない。押し花にして保存した人もいるかもしれないが、ヨワの花ほど完璧にみずみずしく残っているものはないだろう。ヨワの手のひらの中でビンに入ったコリコの花は少量の水に浸っていた。
「今日お会いできて本当によかったです。花屋で長持ちする魔法の水を分けてもらったんですけど、それでも一ヶ月もたないと言われていたので」
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