174 氷屋夫婦③

 ポポイから受け取ったビンをヨワはユカシイとふたりで覗き込んだ。ビンはひやりとしていた。うっすらと白い氷の結晶が張ったビンの中は空気が、いや、時間ごと凍てついたかのように静かだ。


「花自体に魔法をかけたからふたを開けても枯れたりしませんよ。それとビンのほうもおまけに」


 氷の魔法ってとても便利。食べ物を扱う店主なら誰もが欲しい能力に違いない。浮遊なんかより氷の魔法使いになりたかった。ヨワは思いつく限りの賛辞をポポイとパームに送り、財布を取り出した。しかしその手はパームにやんわりと押し留められた。


「お代はいりません」


 でも、と食い下がるヨワにパームはにっこり笑いかけた。


「僕たちはもう十分過ぎるほどのものをコリコ国のみなさんからもらっています。王族の方々も町の人々も、コリコ国の人たちはとても暖かい。僕たちはすっかりこの国が大好きになりました」


 パームは妻の肩を抱き寄せて彼女と微笑み合った。


「もう来年のコリコ祭りに来ることも決めているんです」


 ヨワにとってはあまりいい思い出の少ない国だが、それでも気に入ってもらえたことをよかったと思った。

 そろそろ仕事に戻ると言った氷屋夫婦との別れ際、ポポイは小ビンを握り締めるヨワの手に手を置いた。


「この花が少しでもあなたの癒しとなることを祈っています」


 ぽかんと突っ立ったままヨワは図書館に入っていくパームとポポイを見送った。思わず頬に触りユカシイを振り返る。


「私ってそんなにわかりやすい?」

「先輩、口布外してるから」

「あっ、そうだった……」


 ヨワが微笑むと相手も微笑み返してくれる。竜鱗病の湿疹を見られたくないがためにヨワの顔を半分も覆っていた布は相手の表情まで隠してしまうと気づいてから、ヨワは気分が乗った日には口布をしないようになった。特に病のことを知っていながら気にしていないユカシイやリンといる時や、庭番の仲間とコリコの根っこで過ごしている時はしばしその存在さえも忘れられた。

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