第6章 海

170 竜鱗病の悪化①

 六月上旬。コリコ祭りから三週間が経った。

 ヨワはユカシイと護衛のリンを連れて、ベンガラとハジキが営む薬屋に来た。バナードに襲われた一件はヨワも気づかないうちにストレスを与え、竜鱗病の症状は悪化し湿疹の範囲が広がっていた。

 これに眉間のしわを深くしたベンガラは、さらに強い薬を処方した。だが、強過ぎる薬は腫れや痛みなどの副作用を引き起こす。慎重に使うようにと、何度もきつくヨワに言いつけた。

 そしてこれ以上の薬はないとも言った。


「薬に頼るのもよくありません。なにか気分転換ができたらいいのですけど」


 心配げに見つめるハジキの提案をありがたく受け取り、ヨワとユカシイとリンは薬屋をあとにした。


「気分転換ねえ」

「いい機会よ先輩! だって大学は自習という名の休講になっちゃったし」


 あれからロハ先生は、ヨワの退院を見届けて体調を崩した。バナードと友人のように親しかった先生には、今回の一件は相当の衝撃だったと察する。

 そこへ追い討ちをかけて、カカペト山への入山が当面禁止となった。盗賊の頭らしきカブトという人物とその手下たちがまだ捕まっていないのだ。

 ロハ先生にとってはまさに踏んだり蹴ったりだ。関心ごとへの熱量がすさまじい分、途切れた時の反動が大きい。

 ヨワとユカシイが見舞いに家を訪ねた時は、食欲不振と微熱があると言っていた。本人は、こういった経験ははじめてではないらしく「だいじょうぶだよ」と笑っていたが、心配は拭えない。

 心配といえば、最近の騎士団はぴりぴりとした空気を放っていることも気がかりだ。

 カカペト山に現れた盗賊に加えて、王のひざ元である城下町で起こった事件。町人たちのささやき声が大きくなるにつれて、シジマやエンジ、クチバの表情が険しくなっていった。

 カカペト山の警備に割いている騎士を、さらに城下町の巡回に割いて、東西南北の門はよりいっそう厳しい目が通行人に向けられている。

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