171 竜鱗病の悪化②

 それもバナードが一向に口を割らないからだろう。リンは尋問の内容をヨワに一切話さないが、芳しくない表情を見ればだいたいわかる。護衛復帰を六月まで待ってねばった収穫がゼロでは、苛立ちが思わず顔に出てしまうのもうなずるける。

 気分転換が必要なのはヨワだけではないようだ。それならユカシイの言葉に乗ってみるのもいいかもしれない。バナードの一件以来、ますますべったりついて回るようになったユカシイの心も晴れることを願って、ヨワは明るく話しかけた。


「じゃあどこへ行く?」


 ユカシイは見るからに喜んで「待って、待って」と悩みはじめた。行きたい場所がたくさんあるようだ。


「海はどうだ?」


 そう言ったのはリンだった。先を越されたユカシイがすかさず噛みつく。


「季節を考えてよ。それに先輩は海には行かないわ」

「じゃあ川」

「なんで水辺ばっかりなのよ!」


 ふたりの軽妙なやり取りがおかしくてヨワは笑った。

 お楽しみのお出かけ先は歩きながら話し、ヨワとリンとユカシイは中央図書館へ向かった。その南玄関口でヨワはある人と待ち合わせをしているのだ。


「パームさん! ポポイさん!」


 ヨワの呼びかけに玄関口で待っていた氷屋の若夫婦は笑顔で応えた。

 ヨワがコリコ祭りで気になった氷の魔法使いの若夫婦は、祭りが終わったあともコリコ国に滞在していた。というのもヨワと同じように彼らを祭りで見かけた城つきの司書が呼び止めたのだ。彼らの魔法は城の貴重な資料を保存するのに打ってつけだった。

 その情報を耳にしたススドイ大臣が中央図書館の資料もぜひにと依頼した。しかし城の書庫とは二倍も三倍も蔵書量が異なり、若夫婦の滞在期間は当初よりも延びに延びていた。もちろんその間の費用はススドイ大臣、ひいてはスオウ王持ちだ。

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