166 レッドベア病院④
「俺を信用してないんだろ。あんたは廊下のすぐ出たところにいればいい」
「あたし、あたしも先輩のそばにいるわ。もうひと時だって目を離したくない」
震える声でユカシイが言った。いつだって気丈に輝いていたユカシイの迷い子のように弱々しく濡れた目を見て、彼女が感じた恐怖や不安の深さをヨワは思い知った。今まではなんのためらいもなく彼女の手を取った。だがヨワと関わることはユカシイのためにならない。
「ユカシイ。少しだけ時間をちょうだい。ね、お願い」
ユカシイの目がタカのように鋭くなりヨワをにらんだ。ベッドから勢いよく立ち上がると拳を握り締めて震える。
「忘れないで! 先輩から手を差し伸べたんだから!」
無意識か、放たれた魔力にめまいがしている内にユカシイは病室から飛び出していった。
ぼ、僕に任せて。と、いささか頼りない言葉を残してロハ先生がそのあとを追いかけていく。ユカシイはいつか必ず、魅了の魔法を完成させるに違いない。
「忘れないよ」
ヨワは目を閉じて刹那、ユカシイとはじめて出会った午後の日差しを感じた。
「ヨワ。今日は大事を取って入院しろ」
「竜鱗病の処置もしておきましたからね」
ベンガラとハジキはそう言って病室を出た。最後にシジマが「なにかあったらすぐに呼んでくれ」と言って退室すると、あたりは静まり返る。六台もあるベッドを使っているのはヨワひとりだった。
ススタケがそっと仕切りのカーテンを閉めた。こんな大病院の大部屋をひとり占めできるなんて、王族の特権でも働いているのだろうか。
「ヨワ、抱き締めてもいいか」
「え?」
言葉を理解するよりも早く、ススタケのたくましい腕がヨワを包み込んでいた。
「本当に心配した」
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