165 レッドベア病院③

「あ、いや、家族みたいに仲のいい仲間だ。コリコの樹を守る清掃ボランティアの!」


 ヨワは思わず噴き出した。うまい言い逃れだ。確認をしてきたシジマにはもちろんうなずいておいた。こんなに問い詰められた時でも思わず家族と言ってしまうススタケの思いがうれしかった。


「シジマさん。バナードさんはどうなったんですか」


 最も気がかりであったことをヨワは逸る気持ちを抑えてシジマに問いかけた。シジマはため息をひとつこぼし、下げていた視線をヨワと合わせると同時に口を開いた。彼の言葉にその場にいるみんなが注目していた。


「バナード・ロードは殺人未遂の罪で騎士団が拘束した。エンジとリンが尋問しているところだ。ルル・ホワイトピジョンの件も含めて余罪がいろいろとありそうなんでな」


 ヨワはリンを思った。彼はきっと今カカペト山で捕らえた盗賊たちを前にした時と同じ目をしている。やさしさゆえに彼が心に秘める怒りの炎ははげしい。そのきらめく揺らめきを感じ取る度ヨワは不安になる。この場にリンがいてくれなかったことを寂しく思った。


「クチバの報告によると、やつが喋ったのは『コリコの樹のために』これだけだそうだ。ホワイトピジョン家の者を襲う理由とコリコの樹に一体なんの関係があるのか……」


 バナードはホワイトピジョン家の務めを知っていた。そう確信してヨワはススタケを見上げた。ススタケも真剣な眼差しでヨワを見ていた。ふとその顔がへにゃりと崩れたかと思うと、ススタケはわざとらしく大きな声を上げて注目を集めた。気さくにシジマの肩に手をかけて笑いかける。


「悪いがヨワとふたりきりにさせてくれないか。大事な話がある」


 むっと表情を険しくしたシジマの口が開くよりも早く、ススタケはなめらかにつづけた。

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