164 レッドベア病院②

 なかなかしゃくりが収まらないユカシイの肩を抱いてロハ先生が隣の空きベッドに彼女を落ち着かせる。ヨワは上体を起こした。すかさずハジキが背もたれの間に枕を入れてくれた。ヨワはユカシイが選んでくれた服ではなく、簡素な病衣を着ていた。


「ヨワ。この通りだ」


 静かに一歩前へ出たシジマが深々と頭を下げた。ヨワは驚いてやめさせようとしたがシジマの折れ曲がった体はぴくりとも動かなかった。


「どんな状況だろうと任務に失敗した騎士に言い訳は許されない。この一件の責任はすべて私にある」

「違います。私が悪いんです。あなたの言いつけを守らなかったから。自分の立場も、シジマさんの立場も軽視してしまった。ごめんなさい」


 もしかしてこの一件でシジマが降格されることもあるのだろうか。あんなに気がよくて親切なシジマ一家のみんなを悲しませてしまう。リンもヨワのせいで悲しむ。そう思うとヨワは頭を上げられなくなった。


「だいじょうぶだ、ヨワ。ヨワを助けたことでお咎めは壊した柵の修繕だけになった。気に病むことはない」


 そう言って笑いかけてくれたのはススタケだった。彼が喋り出すととたんにシジマとベンガラとハジキが訝しげな視線を送る。ススタケの正体は本当に庭番の者しか知らないのだと実感してヨワは目をまるくした。


「あなたは城にいましたからなんらかの関係者とは察しますが、ヨワとは一体どんな関係で?」


 シジマは値踏みするような鋭い目をススタケに向けた。まさか騎士が守るべき王の実弟とは思っていない。ススタケもコリコの樹の秘密を守るため正体を明かすわけにはいかず口ごもった。それがますます怪しさに拍車をかける。助け船を出してやりたいがどう言ったらいいのか思いつかず、ヨワはロハ先生と視線を交わした。


「お、俺はヨワの家族だ」

「家族う?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る