162 すべてはコリコの樹のため②
全身を冷たさが襲いかかり、ヨワは叩き起こされた。とたん、なにかが気道をふさぐ。水だ。ヨワは水の中にいた。
溺れかかり顔が半分も潜る。助けて! 叫ぼうとした拍子にまた水を飲む。息苦しさと焦りが胸を焼いた。
すぐそばに誰かの足が見えた。幸いにも目と鼻の先にコリコの根っこがあった。よかった、助かる。そう思ったヨワの歓喜は、視線を上げた先で打ち砕かれた。根に腰かけ、溺れるヨワをバナードはじっと見つめている。
「もう目を覚ますとは。薬の量を間違えたか。妹はぐっすり眠っていたのに。まあいい。失敗したら刺し殺そう」
バナードは見せつけるように鎌を構えた。
「お前はつくづくかわいそうだな。大人しく寝ていれば苦しまずに死ねたものを。もう抗うな。どうせお前の人生はクソだろ。この先その醜い病が治る希望も、両親がお前を受け入れる希望もない。庭番なんてふざけた連中も今に消える」
ヨワは必死に水を掻いた。だが足になにか引っかかっているのか、思うように動けない。それがバナードにつけられた重りだと気づける猶予もなく、頭まで水をかぶる。
魔法だ。息苦しさにあえぐ思考の中で、ヨワはようやくひらめいた。もう息がつづかない。服が水を含んで、ヨワを奥底へ引きずり込もうとしている。
「お前に生きる意味なんてないんだ、ヨワ。お前は誰にも望まれず生まれた子だ。事故なんだよ。今もまだ喪に服しているミギリとシトネは、お前が死んだことにさえ気づかない」
魔法。魔法。魔法。ああ、魔法ってどうやるんだっけ。
考えたこともなかった。頭が真っ白。苦しい。寒い。冷たい。
家族にお誕生日おめでとうって言ってもらいたかっただけなのに、このまま死んだら私は本当にいらない人間になってしまう。そんなの嫌だよ。死にたくない。
――誰か、助けて。
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