153 ユンデの奇妙な言動③

「あっ、ソゾロ! 散歩の帰りかい?」


 困り果てたヨワの耳に、ユンデの声とネコの鳴き声が聞こえてきた。ヨワの腕にふわふわのしっぽをかすめて、夜明け色の長毛ネコがユンデにすり寄っていく。

 ひと目でわかった。度々、ヨワの部屋を訪ねてくるあのネコだ。


「それあなたのネコなのっ?」

「うん。ソゾロっていうんだ。お前はかしこいな。ちゃんと僕がわかるんだ」


 頭をなでてもらって、ソゾロはユンデの手に向かい体を伸ばした。どんな埃もひと振りで絡め取るしっぽが、くねりと立ち上がる。のどを鳴らすのは親愛の証だ。


「そのネコ、私の研究室によく来て、いて……」


 ふとヨワはなにか重大なことに気づいた感覚がした。しかしひらめきは瞬きのうちに通り過ぎてしまって、理解が追いつかない。

 ソゾロにまつわることだ。ヨワはその記憶を手繰り寄せようと、ネコをじっと見つめる。


「ヨ、ヨワ。僕そろそろ帰らないと!」


 だから動揺するユンデの声に気づけなかった。ユンデはさっとソゾロを抱えて立ち上がってしまう。ヨワが残念に思う間もなく、すでにあとずさりしている。


「ごめんね。また今度ゆっくり遊ぼうね」


 そのまま立ち去るユンデを、ヨワは慌てて追いかけようとした。けれど「忘れてた!」と彼は引き返してきて、ヨワをぎゅっと抱き締めた。


「ヨワ大好き」


 耳元に甘いささやきを残してユンデは走り去る。ネコの記憶も、ユンデが突然帰った謎もしばし忘れて、ヨワは呆然と突っ立っていた。

 ヨワを我に返らせたのはユカシイの容赦ない揺さぶりだった。


「中途半端なもじゃ男が! 十年ですって!? ふざけた気持ちであたしの先輩を奪ってんじゃないわよー!」


 どこからどこまで覗き見していたのか、喚く後輩をヨワはとりあえずなだめなければならなかった。

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