152 ユンデの奇妙な言動②

「だって困るよ。僕がヨワとお付き合いしたいのに!」

「本当に本気だったんだ」

「本当に本気だよ」

「私、両親ともうまくいってないのに?」

「それは今は仕方ないよ。いつか仲直りすればいいじゃん」

「竜鱗病持ちだよ?」

「そんなの関係ない。僕はヨワのやさしいところが好きなんだ!」


 ここまでよく思ってくれる人との出会いは、きっと人生に何度もあることではない。ユンデの言葉はひとつひとつがありがたかった。

 ふとリンを思い出す。しかし彼はヨワのことをどう思っているのかさえわからない。比べる相手などいなかった。ヨワは誰を重ねることなくユンデと向き合えた。

 しかしこんなにうれしい言葉をかけてくれたのに、ヨワの胸は熱を帯びなかった。震えることなく一定の鼓動を刻んでいた。こんなものなのだろうか。それとも自分の心は愛にまひしているのだろうか。

 ユンデの顔が近かった。彼は水色の瞳を今度はそらさなかった。


「ヨワは僕のこと好き? お付き合いしてくれる?」


 ヨワはリンを思った。好きくらい伝えればよかった。


「うん、いいよ」


 次の瞬間ヨワは歓声とともにユンデに抱き締められた。その直後どこからかユカシイの声が聞こえた気がしたが、ぎゅうぎゅう押しつけられる胸板に首を回すことができなかった。

 ユンデは大はしゃぎで喜んでいる。ヨワは純粋な好意だけではないことに罪悪感を抱き、微笑み返す目元が震えた。

 ところがユンデが思いも寄らないことを口にする。


「じゃああと十年待ってくれる?」

「えっ、どうして」

「どうしても! 僕のこと好きなら待ってくれるよね」


 ヨワは頭を抱えた。十年は長い。おそらくスオウ王とススドイ大臣はそこまで待てない。

 浮遊魔法の世継ぎ問題を、今ここでユンデに話してしまおうか。しかし、責任を感じたら彼は離れるかもしれない。利用したのかと、ヨワを責めることもあり得る。

 もっとよくないのは、それを否定しきれないことだ。

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