第5章 コリコ祭り
141 もだもだリン①
晴れ渡る五月の薄青空に映えるは白い花を満開に咲かせたコリコの巨樹。温もり帯びる南風に花の波がさざめいて、芽吹きの祝福を分け与えるかのように白い花弁がコリコの民に降り注ぐ。前日に飾りつけたピンクや水色の花と緑の草の元にも、民家の屋根にも、くねくねの根っこ道も、コリコを囲む四方の門と湖にかかる橋も、野外区も、港町も、コリコの白い花は風に乗り舞い積もる。
コリコ中の商人と海を渡ってきた行商人が、世界中から集まった客を歓迎する音楽を打ち鳴らす。おいしそうなにおいに誘われ、キラキラ輝く光に招かれ、誰も彼もがこの日のためにと用意した素敵な服で踊り出る。今日一日は大きく口を開けて笑って食べて歌い尽くす日。でもコリコの花吹雪は吸い込まないようご注意。
〈ナチュラル〉もそうじゃない人も満開のコリコを美しいと思った瞬間からコリコ祭りははじまっている。
「って、みーんなが浮かれている日にリン兄はなに怒ってんの」
「お、怒ってない」
「ここ。しわ寄り過ぎ」
弟のスサビに眉間を指さされリンは思わず額を手で隠した。
コリコ祭りと言えば騎士たちの間ではもっぱら“最悪の日”だ。医療機関も交通機関も不運な最小限の人数だけを残して休みだ。家族と過ごすため仕事の調整をして連休を取る者が大半いる中、騎士は全員もれなく警備の仕事が与えられる。しかも、緊急時に備えて詰所で待機の隊長格とは違い、平の騎士は一日中街の巡回に駆り出される。これなら体を思いきり動かせて休憩も取れる鍛練のほうがましだった。
巡回はとにかく退屈だ。祭りの人混みに気力も体力も削られる。特に明日も休みだという安堵感からあふれる人々の笑顔を見つづけていると、自分は今なにをやっているんだろうと人生について振り返りたくなる。ある意味では最も危険な任務とも言えるだろう。それからだんだんと蒸れてくる胸当てや籠手が堅苦しい。暑い。くさい。
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