142 もだもだリン②

 正午を回り陽光がますます熱を帯びてくると、リンとともに巡回していたスキンヘッドの騎士は木陰に座り込んだ。これ幸いとリンは断りを入れて一時任務から離れると私情のために走り出した。そうして目的の人物――ヨワを南区の市場に隣接する今日のために設けられたテラス席で見つけた。

 大きなメニュー表の看板に隠れてじっとヨワの、もっと言えばユンデとお喋りするヨワの様子をうかがっているところへ突然弟のスサビに声をかけられたのだ。


「うるさい。お前はあっちに行ってろ」


 手で追い払う仕草をすればスサビは離れるどころか顔を寄せて、リンの視線の先を覗き込んだ。


「なんでヨワさんはリン兄じゃない人とデートしてるの。それでリン兄はなにやってんの」

「本当に嘆かわしいわ。あんなもじゃ頭男にコリコ祭りのヨワ先輩を取られるなんて」


 聞き覚えのある声に看板の表側を見るとユカシイが立っていた。


「なんでいるんだ!」


 リンが驚くと「心外ね。あたしは朝から先輩を尾行しているわ」と答えが返ってきた。

ヨワに関することで彼女の右に出る者はいない。リンは愚問だったと悟った。


「それに今日の先輩の服を選んだのはあたしですもの」


 服と言われリンはもう一度注意深くヨワを見た。遠目からでは細かいところまではわからないが、いつもと同じ大学ローブに見える。首をひねるリンにユカシイは「大学ローブは手放せなかったけど」と言った。


「あの下は春にぴったりなチュニックにキュロットよ」


 リンには難しい単語だったがヨワがいつも着ているシャツとベスト姿でないことはわかった。それは助手に支給される制服だ。ヨワは着られればなんでもいいと考えている節があって、服装に気を遣っているところを見たことがない。大学が休講の日さえその調子だ。そこには竜鱗病の鱗を見られたくない思いがあるのだろう。

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