131 不穏③

 自分の鈍くささを呪う。ヨワは仕方なく手ではしごを押して地味な勢いをつけていつもよりちょっとだけ速く上った。

 ふたつの扉を開けて広間に出ると、ススタケの大きな背中に隠れるズブロクとシオサイの姿がまず目に飛び込んできた。よかった、ふたりは無事だった。マンジもススタケの横に立っていて怪我を負っている様子はない。


「お前は誰だ」


 ススタケの怒気を帯びた声が広間に響いた。侵入者がいたらしい。ヨワからはススタケの大きな体でよく見えない。回り込もうと歩き出したとたん、ズブロクが手招いてきていっしょに隠れるよううながされた。


「だ、だいじょうぶだよ。長は格闘家でもなければ剣技の使い手でもないけどどどど、金と地位はあるから! どうにかしししてくれるよおっ」

「それあんまりだいじょうぶじゃないですしズブロクさんびびり過ぎです……!」

「お、お前も人のこと言えないよおっ? それ手汗、拭き過ぎてズボン漏らしたみたいになってるからね。本当に漏ももももらしてないよねっ?」


 ヨワはそこそこ大きな声で喋るズブロクとシオサイに静かにするよう注意して、ススタケの背から様子をうかがえないか身をよじった。マンジは戦意があるようだが丸腰だ。ススタケも武術に覚えのある人ではないということなら、この場で侵入者に対処できるのはヨワしかいない。

 ススタケとマンジの隙間から見えそうだと身を乗り出した時、マンジに頭を押さえられた。


「どうやって入ってきた。入り口の扉は封印が施してあったはずだ」


 ススタケはとても堂々としていた。


「ロハ先生だよ。全部ゲロった。あとでもう一度締め上げないとな」


 侵入者は男の声だ。ヨワは眉をひそめた。


「くそ。なにが目的だ!」

「しらばっくれんな。ヨワがここにいることはわかってる。隠しても無駄だ。ヨワを渡せ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る