132 止めなくてもいい涙①

「ヨワは渡さねえよ。たとえここにいる全員が殺されてもな」

「なんだと。どうしてそこまでヨワにこだわる」

「ヨワはこの国の希望だからだ!」


 一歩前に踏み出しススタケは吠えた。その後ろ姿を見上げヨワは突然涙が込み上げてきた。悲しくもないのに熱い雫は止まらない。手の甲の湿疹に落ちたそれを見てヨワはまだこんなにも生きたいと思っている自分に気がついた。親に見放され竜鱗病で醜い姿になり、その負い目と傷ついた過去が性格を歪めたどうしようもない人間だ。

 それでも生きたい。必要とされたい。生まれた意味を見つけたい。

 ヨワは声を抑えられなかった。絶望に涙する時は我慢できたのに今は口を突いて声が出てくる。ずっとこうしたかった。声を上げて泣きたかった。心のままにヨワは泣く。どんなに流しても意味のない涙ではない。だってこれはうれし涙だもの。


「ヨワ!」


 泣き崩れたヨワの名前を呼び抱き締めてくれた温かい手があった。ぼやける目でヨワは必死に相手の顔を見つめた。いや、ひと声聞いた時から侵入者の顔は思い浮かんでいた。


「リン……!」


 ヨワは彼の胸に顔を埋めた。


「だいじょうぶか? なにかあったのか。こいつらは悪者ではなさそうだけど」


 リンはためらいがちにヨワの背中をなでてくれた。触れ合ったところからリンのやさしい気持ちが流れ込んでくるようだった。ヨワの涙はいっそうあふれたが止める必要はなかった。言葉にならないヨワの代わりを務めるようにリンがゆっくりと話してくれた。


「ヨワを追いかけて城を出たらユカシイがぶつかってきたんだ。お前が大男にさらわれて建物に連れ込まれたって。そこにロハ先生も来て、なんでかその大男もヨワが連れ込まれた場所も知ってるって言うから、案内してもらったというか、させたというか」

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