116 第3王子ソヒ③
「顔の鱗も見てみたい。口布を取れ」
最悪。ヨワは思わず室内をうかがった。ロハ先生はまだ来ない。日頃の運動不足が祟ってきっとそのへんでヒイヒイあえいでいるに違いない。ここから大声を出して廊下にいるエンジに届くものだろうか。一か八かやってみるにしては届かなかった時が怖い。この王子は保身のためならなにを口走るかわからない。そして城の者は平民より当然王子の声に耳を傾ける。
「どこを見ている。僕を無視するな! 早く口布を取れ!」
大股で近づいてきた王子にヨワはとっさに言ってしまった。
「わかりましたから! 落ち着いてください王子」
この王子こそ世界を知るために留学に出すべきだ。自分の王国に閉じこもっているから自身がどんなに小さい人間か気づいていない。こんな教育をしたスオウ王を呪う。
ヨワはうつむいて口布を外した。フードを取り去ると枝葉に乗って舞い降りた風が干し草の髪をなでた。おもむろに顔を上げたが視線は足元に落としたまま、ヨワは好奇の目に耐えた。知らず知らず歯を食い縛っていた。
「本当に醜いね。その醜さでよく生きていられる。僕だったら堪えられないよ」
足元がぐにゃりと歪み世界が回った。強烈なめまいに、バルコニーの手すりにすがりつく。にわかに胸のあたりから不快感がせり上がってきて、気持ち悪い。のど奥の異物を吐き出そうと体がえずく。苦しさに涙がにじんだ。
「もうさあ」
怒りか悲しみか、自分の心さえわからない。こんなものは引きちぎって投げ捨ててしまえば楽になる。それだけははっきりしている。諦めて感情を押し殺すことにさえ疲れた。
「いいよね。私がんばったよね。もう許されるでしょ」
うつむいたヨワの目に光は差し込まない。
「もう、死んでもいいでしょ」
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