117 それは忌避すべき希望

 ふたをして、心の奥底にしまい込んだ箱の中、最後の残骸に手を伸ばす。それは最も嫌悪するべきものであり、希望でもあった。

 眼下に外階段を見つけた。コリコの太い幹をぐるりと迂回して作られたそれは、城から伸びて別の場所に繋がっているようだった。

 ヨワはなにも考えず、魔法でバルコニーから外階段へ下りた。そこからは城下町がよく見えた。手っ取り早く城から出られる。


「ヨワ?」


 声がした。だから振り返った。外階段に立つリンがいた。

 この先は騎士の詰め所か。なんてどうでもいいことを考えた。気がする。

 ヨワは階段から身を乗り出して、手すりを蹴った。リンの騒がしい声が追いかけてくる。

 うるさいよ。もうほっといて。

 城下町にそっと降り立ったヨワを通行人が見ていた。城を振り返ることなく、うつむいて歩き出す。

 このまま南門からとにかく早く街を出て、そのあとは海岸に行く。海に沿ってとにかく歩いていくのだ。そうしていつか動けなくなって、なにもわからなくなる。

 ヨワがどこにいて、いつ死んだのかもわからなければ、ロハ先生やユカシイが悲しむことはない。死体を煩わせることもない。

 いつかの夜に立てた計画通り。

 死を思うと、不思議と心おだやかになれた。そんな自分が壊れていることなんて、とっくに気がついていた。

 ちゃんと生きようと思ってもできない。でき損ないの見た目通りの変人。それが私。

 ルルさえ生きていれば、王が注目することなんてなかった。リンやシジマ一家と出会うこともなかった。

 それらの出会いはすべて間違いだ。正しくはヨワが殺されて、そこからの筋書きはきっと全部、ルルのために用意されたものだった。

 だからうまくいかない。ヨワじゃうまくいきっこない。


「ちょっと待ってくれお嬢さん」

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