110 家庭教師の手伝い①

 どうしたものか、ヨワはため息をつく。スオウ王と鉢合わせすることは万が一にもないだろうが、リンとなると話は別だ。面と向かうのはさすがにまだ気まずい。

 城を見上げるだけだった日々よりも、今はもっと近づきがたい場所になっていた。


「ヨワ城に来るのか」


 サンドイッチを口にくわえながらクチバが言った。


「ロハ先生の頼みなら行くには行くけど……。標本を運んだら私はすぐ帰ります。授業が終わる頃にまた行きますから」

「それで十分だよ。ありがとう」


 その時クチバが勢いよく立ち上がり、本が崩れた。しかし彼は構わずヨワに歩み寄ってくる。魔法で本を元に戻そうとしたヨワに、クチバは耳打ちした。


「標本を運んだら外階段に来い」

「なんで」


 ぴんっと指で弾き本を戻しながら、ヨワは眉をひそめる。


「なんでも」

「外階段なんてどうやって行けばいいのかわからない」

「王子の部屋のバルコニーから見える。いいな、絶対来い」


 クチバはどんな用件かいくら聞いても答えなかった。そのくせヨワが拒むとしつこく食い下がってくる。

 押し問答をくり返すほどクチバへの不審が募っていくが、彼の必死さも伝わってきた。ロハ先生の頼みを断れない以上、結局外階段に行ってしまうんだろうなと未来の自分にため息を吹きかけつつ、拝んできたクチバに頑として首を縦に振らなかった。




 水曜日、午前の講義が終わるとヨワはユカシイからコリコ祭りの飾りつけで使う花をいっしょに買いに行かないかと誘われた。このあとは王子の家庭教師に赴くロハ先生の手伝いをしなければならないと伝えると、ユカシイはそのあとでも構わないと言った。だいたい終わる時刻を教えてユカシイと別れ、ヨワは昼食のコロッケパンを口にくわえながら先生から渡されたリストを手に資料室兼自宅へ向かった。

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