111 家庭教師の手伝い②

 コロッケの甘いソースを口いっぱいに味わいながら、メモ用紙をひらりと宙に浮かべてリストを読み上げていく。


「クリスタル、岩塩、雲母、自然銀、オスミウム……」


 がしゃん! 大きな物音がヨワの作業を中断させた。ぎょっとして目を見張ると浮遊する自然銀の下でほうきとちりとり、ごみ箱が倒れていた。まるめた紙くずが床に散乱している。ヨワは思わず顔を覆った。気づかず内に掃除道具を自然銀に立てかけていたらしい。


「ヨワ、どうかな。そろそろ行けそう?」


 扉の向こうからロハ先生の声がかかる。ヨワはハッと背筋を正した。


「もうちょっと待ってください!」


 ヨワは急いでコロッケパンを口に押し込むと右手で部屋の片づけ、左手で標本の準備を進めた。紙くずがふたつ、ごみ箱を外れて隅に転がったり縁に弾かれて枕元まで飛んでいったりしたがヨワは気づかなかった。

 ロハ先生とともに廊下に出たヨワは、クチバと護衛を替わったエンジに目をまるくして驚かれた。ヨワの周りには大小様々な鉱石が風船のように浮遊していた。ヨワがどんなに軽やかに済ました顔をしていても、周りに従えているのはごつごつと硬い石だ。それが十もあれば騎士が驚愕するのも仕方ない。


「それだいじょうぶなの?」

「平気です、けど」


 じろじろ見られるならひとつ持とうか、と言ったロハ先生の申し出を断らなければよかったとヨワはうつむいた。

 リフトで城の正門に登ったヨワは、前を行くロハ先生の背中に寄り添って歩いた。その肩越しに門番の騎士や廊下を歩いてくる人物の中にリンがいないかとひやひやし、別人とわかる度にため息をついた。びくびくするヨワの周辺ではすれ違った城の者が浮遊する石に驚きおののき、避けるのに四苦八苦していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る