71 シジマ家全員集合!①

 なんというか全体的にかわいらしい家だ。名家や騎士の威風を吹かせていない。ホワイトピジョン家の近づきがたい雰囲気がまったくない。


「ん? どうしたんだヨワ。早く来いよ」


 オシャマにつづき玄関に立って振り返ったリンがそう言って微笑む。なんでもないちょっとした仕草なのにヨワは涙がにじんだ。


「ん。今行くよ」


 リンに気づかれないように目元を拭い、ヨワはそろそろと玄関を潜った。


「ママー! どこ行ってたんだい!? 帰ってきたらきみの姿が見えなくて心配したよ」


 とたん、大男がオシャマに抱きつく場面が目に飛び込んできた。いや、大男はシジマだ。我が国の第十番隊騎士をまとめる隊長だ。思いきり鼻の下を伸ばしてオシャマの胸に頬ずりしていようとその事実は変わらない。


「あら、あなた帰りが早かったのね」


 オシャマは平然と夫を抱き締め返しのほほんと言った。


「なんだ、リン帰ってきたのか。忘れ物?」


 シジマの後ろからひょこりと顔を見せたのは、副隊長でありシジマ家長男のエンジだった。エンジはヨワに気づいて目をぱちくりさせた。


「母さーん。腹へったー」


 服の裾に手を突っ込み腹を掻きながら正面の階段から下りてきたのはトサカ頭だった。クチバは玄関にいるリンから、ヨワに視線を移しクワッと目を見開いた。


「あー!」


 指をさし、ドタバタと残りの階段を下りてきたクチバは指をヨワに突きつけた。


「俺を吹き飛ばしやがった暴力女!」


 今度はコリコの樹のてっぺんまで吹き飛ばしてやろうか?

 よほど言う前に実行に移してやりたいと思ったが、クチバの両親がいる手前、ヨワは引きつった笑みを浮かべるに留めた。するとリンがヨワの前に入って興奮するクチバをなだめた。

 そういえばリンは何番目の息子なのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る