39 〈ナチュラル〉③
最後のひとことは余計だったか。バナードの目がまるく見開かれるのが視界の隅に入った。
「先輩、いい加減ロハ先生にベッド買ってもらったらどうです」
すかさずユカシイが絡んできた。話が逸れたことはありがたかったが、リンの言葉に夢の内容を思い出してしまったヨワはいつもの後輩の接触を受け流すことができなかった。
「ごめんね。買ってあげたいのは山々なんだけど、あそこ狭くってねえ」
苦笑いを浮かべたロハ先生にバナードがどういうことか尋ね、注目が移ったと感じたヨワはするりとユカシイをかわしてリンを通り越し、最後尾を少し離れて歩いた。しかしユカシイはめげずについてきた。
「ヨワ先輩、掻いちゃダメだよ」
やんわりと指摘されてはじめてヨワは自分の手が爪を立てて腕を掻いていることに気がついた。ストレスを感じるとダメだ。たとえ鱗状の湿疹がかゆみを発していなくとも無意識に手が動いてしまう。そうして掻いていると本当にかゆくなってくるのだ。
「構わないでよ」
ユカシイが心配しているとわかっているが、この苦しみを知らない者に指摘されてもヨワの神経を逆なでするだけだった。
緑豊かな動植物の楽園は五合目を過ぎたあたりから徐々に様子が変わってくる。草花の群生は姿を消し、ゴロゴロと大きな岩が目立つようになり、木はヨワのひざまで低くなって地面を這うようにして生えている。鳥たちの声は遠ざかりそれに代わって風のゴオという音が耳を叩いた。雪もまだ多く残っていた。
休憩を挟みながら登ってきた足が重くなるのもこのあたりからだ。バナードはお喋りだった口を閉ざし、意気揚々と先頭を歩いていたロハ先生はヨワの後ろまで下がっていた。ヨワとユカシイも荷物を魔法で浮かせていても上がる息を隠せない。
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