38 〈ナチュラル〉②
〈ナチュラル〉はもともと自然を愛する思想のひとつだった。今はその明確な象徴に樹齢何百年も生きている大木、古木を神格化し崇める信仰として世界に広まっている。〈ナチュラル〉の人々は金欲や物欲を悪とし、多過ぎる富は人に分け与え慎ましい暮らしを心がけた。
その謙虚で献身的な姿勢は無信心の者や異なる信仰ともうまく溶け合った。コリコ国もその内のひとつだ。コリコは巨樹を育て支える水や大地を神としているが、コリコの樹に対する人々の愛情もまた強かった。その愛と〈ナチュラル〉の大木信仰は大いに波長が合い五月に開かれるコリコ祭りという形になって表れている。この祭りははじめてコリコの地に移ってきた〈ナチュラル〉の者が、コリコの民とともに作り上げたものだった。
「そうだったんですね。でもなんか、すごく納得しました」
植物を敬い愛するバナードだからこそおいしい野菜を作ることができる。リンが納得する気持ちはヨワにもよくわかった。
「ヨワ、だいじょうぶか」
ふとリンの声が一段と低くなって背中に投げかけられたものだから、ヨワは心臓が跳ねた。
「なんで急にそんなこと聞くの」
「いや、昨日眠れたかなって思って」
今度こそ心停止するほど驚いたヨワだが、驚き過ぎて声も出ないほど固まったのでその心境を察した者は誰もいなかっただろう。まさか昨夜、残酷な甘い夢を見て起きたことに気づかれていたのか。ヨワはよっぽどリンに問い質したかったが、それまで彼と話していたバナードとユカシイもこちらに注目しているとわかった。おまけにロハ先生にも聞かれてしまうかもしれない。
ヨワは努めて明るく返した。
「なに言ってるの。眠れたに決まってるでしょ。むしろ普段の布団より寝袋のほうが快適だったくらいだよ」
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