40 山男ダゲン①

 だがリンだけは元気だった。ヨワは結局彼のリュックに魔法をかけてあげなかったのに、リンはみんなを励ますように一番前を歩いている。さすがは騎士といったところだ。

 ヨワはそろそろ頃合いと見て、ロハ先生のリュックに浮遊の魔法をかけた。ひとり仲間外れにするのは気が引けたので、ついでにリンのリュックも浮かべてあげた。

 先生はやっぱり急に荷物が軽くなったことを、ヨワの仕業とは思わないで「僕には登山家の素質がある」と言ってまた元気に歩き出した。

 調子よく追い越していった先生の背中に苦笑を送っていると、リンと目が合う。


「ありがとう」


 リンはにっかりと笑った。どう返したらいいのかわからず、ヨワはとっさに目を逸らす。

 たとえ魔法の効果を知っていたとしても、瞬時にそれと理解できるものではない。ロハ先生のように、言わなければいつまでも気づかない人だっている。

 リンの鋭い感性は騎士の訓練を積んできた賜物か、名家ブラックボアの血か。あるいはその両方か。


「へえ。わかってるじゃない」


 ユカシイの言葉にヨワは素直にうなずいた。リンの実力の片鱗を垣間見た気がした。




 カカペト山を登りはじめて六時間。

 一行はようやく八合目に到着した。すでに太陽はてっぺんを過ぎて、山肌を照らす日光はわずかに黄金色を帯びている。

 ひと息つく一行の中から突然、ユカシイがリュックを放って駆け出した。風になびく金髪を目で追いかけると、後輩は山小屋からちょうど出てきた壮年の男に飛びついた。

 いつもお世話になっている山小屋の主人ダゲンだ。ダゲンは受けとめたユカシイと二、三、言葉を交わして、えんじ色のニット帽を取りこちらに向かって手を振った。

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