13 ブラックボア家の黒髪騎士①

 ヨワが素直に恋人がいないことを認めると王は満足そうに手を打ち鳴らして人を呼んだ。横からユカシイの小さなため息が聞こえた。

 ところがスオウ王が手を叩いてから数十秒が経っても謁見の間にやってくる者はいなかった。今度はススドイ大臣がたっぷりと空気を含ませ手を二度打つ。その音は四方の大理石をはねっ返り、たとえ正門にいても聞こえそうなほど響き渡った。

 するとロハ先生が現れた右手の扉の向こうがにわかに騒がしくなった。


「離せって! だから俺は今騎士の鍛練に集中したいんだ。女なんかに構ってる暇はない!」


 ヨワには聞き捨てならない大声が聞こえたその直後だった。扉が勢いよく開かれ騎士がふたり颯爽と入室してきた。脇に後ろ向きのまま引きずられる男を抱えて。


「遅れてしまい申し訳ありません。皆様方」


 一際背が高い壮年の騎士が深々と頭を下げた。

 褐色の髪にやや黄色がかった肌、おだやかな目元にメガネをかけたやさしげな顔立ちとは裏腹に、鋼のような筋肉に包まれた体格。王の生誕記念パレードでヨワも見たことがあるその人は、騎士を多く輩出している名家ブラックボア出身のシジマ隊長だ。

 男を引きずっているもうひとりの騎士にも見覚えがある。すらりと高い背に、褐色の髪をひとつ結びにしたまじめそうな彼は、たしかシジマ隊長の長男エンジ副隊長だ。

 よく似た親子の褐色の髪。ヨワはその色をさっきまで見ていたと思った。


「ったく。なにやってんだよリンのアホは」


 ぼそりとぼやいたのはヨワの後ろに控える小柄な騎士だった。

 そうだ、彼も髪は褐色だ。中央だけを長めに残し、まるでニワトリのトサカのように髪を逆立てた彼は、シジマやエンジと比べるとずいぶん身長が低かったが、ブラックボア家の者には違いない。

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