14 ブラックボア家の黒髪騎士②

 東区のホワイトピジョンに並ぶ西区の名家ブラックボア。褐色の髪に茶色の目をもつかの一族は魔剣の使い手として世界にもその名をとどろかせている。

 対して、名家の騎士に両脇を抱えられている男はほとんど頭しか見えないが髪はカラスの羽のような黒だ。

 ヨワは無礼を承知で黒髪の男を指さした。


「王様。まさか相手とはあの引きずられている人ですか」

「あー、まー、なんというか……その通りだ」


 さすがに印象が悪いと思ったのだろう。スオウ王の声ははじめて弱々しく震えた。ひとつ咳払いしたススドイ大臣は一切の動揺を感じさせない声で、黒髪の騎士を紹介した。


「彼の名前はリン・ブラックボア。そこに控えるシジマ率いる第十番隊に所属する騎士団員です。歳はあなたと同じ二十三歳。騎士団に所属している以上、彼の身元と人格は王が保証します」

「え、わし? だいじょうぶ? なんかリンすごい不機嫌で不安なんだけど」

「騎士は誰の兵ですか」


 ススドイ大臣ににらまれたスオウ王は改めて居住まいを正しヨワに引きつった笑顔を向けた。


「ヨワ、心配するな。リンは今日少し虫の居所が悪いだけで、普段は正義感の強い頼もしい男だぞ」


 ヨワは拳を握り締めると意を決して黒髪の騎士リンの元へ歩き出した。不安そうな視線をユカシイとロハ先生から感じた。

 ヨワが近寄ってきたのを見て、シジマとエンジは力任せにリンを立たせ正面を向かせた。だがリンは顔をうつむかせ、髪と同じ黒い目をヨワと合わせようとしなかった。

 口布の裏でヨワは口角を釣り上げる。肺にたくさんの空気を吸い込んだ。


「心配ご無用。私だって男なんかに構うほど暇じゃありませんから。あなたみたいに無礼な人、こっちから願い下げです」

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