9 悪い知らせ③
そう言うとロハ先生はスオウ王を振り返り「私から説明してもよろしいでしょうか」と頭を下げた。王は軽くうなずいて許しを出した。
「ヨワ。なんと言ったらいいのか……」
講義中も日常会話でも絡まることを知らないロハ先生の舌と唇がよどんだ。ヨワは胸にざわめくものを感じてここから逃げ出したくなった。
精神的負荷が最も病に障る。そうしたものからは逃げるのが一番の薬だと当の昔から心得ていた。だが、騎士や王の視線がヨワの足に巻きついて動けなかった。
「きみの妹さんが、亡くなられた」
ユカシイの息を呑む声がした。
「昨夕、湖で遺体が発見されたんだ。誤って湖に転落した際、水を多量に飲んで溺れた事故死と見られている」
「そう、ですか。ルルが……」
正直、実感の湧かない突然の訃報にヨワがつぶやいたのはそれだけだった。
「妹を失ったばかりのきみに、僕もこんなことは言いたくないんだけど。ヨワ、きみに頼みがある。きみにしかできないことなんだ」
「頼み? これは名家に生まれた者の務めだろう、トゥイグ教授」
スオウ王の言葉にロハ先生は「しかし」と弾かれたように振り返った。だがその先の言葉は王の片手によって制された。拳を握り締めてうつむくロハ先生に代わって口を開いたのは王だった。
「ホワイトピジョンの娘よ。亡き妹に代わり世継ぎを成せ」
これにはヨワもユカシイも驚きの声を上げたまま開いた口がふさがらなかった。自分の耳さえ疑った。
「なにを驚いておる。当然の流れだろう。ね、そうだよね?」
軽く確認の声をかけられた関白は重々しくうなずいた。
ヨワはまいった。人目がなければ天を仰いで大きなため息をつきたいところだ。ヨワには王の言うように簡単に妹の代わりになれない理由があった。
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