8 悪い知らせ②

「先輩、なんで名乗り出ないんですか」

「だって私ホワイトピジョンじゃないし」


 ひそひそとやり取りするヨワとユカシイの隣でふたりの騎士もこそこそと会話していた。


「お、おい。どっちがホワイトピジョンだ」

「俺に聞くな。知らねえよ」

「まさか間違った人物を連れてきたのか」


 一段低くなったスオウ王の声に騎士たちの背がまっすぐ伸び上がった。


「そんな、まさか。ちゃんとあの大学教授に聞いた部屋にいましたよ」


 小柄な騎士が慌ててそう答える。ヨワは大学教授と聞いて思い当たる人物がひとりいた。ユカシイもハッとした表情でヨワを見た。


「だったらなぜ黙っておるのだ」

「お待ちください陛下!」


 そこへ右手の扉からひとりの男性が謁見の間に慌てた様子で入ってきた。白髪混じりのネズミ色の髪に、こんもりとたくわえた口ひげ。丸メガネに大学のローブとエプロンを身につけた、いつもの格好のロハ先生だった。


「ダメだよ、ヨワ。屁理屈はやめてきちんとごあいさつしなくちゃ」


 ヨワは自分のことを王や騎士に教えたのはロハ先生しかいないと確信していた。きちんとした住所がなく、大学の研究室の片隅で暮らしているヨワの居場所は、ロハ先生やユカシイなど研究室仲間しか知り得ない。

 ヨワはそれでよかった。自分の存在を知る者はできるだけ少ないほうが気楽でいられた。


「先生がこんなところにいらっしゃるなんて意外でしたよ」


 特にヨワを助手として誘ってくれたロハ先生のことは信頼していたが、あっさりと口を割ったらしい彼に裏切られた心地だ。ヨワはたっぷりと不満と不信を込めた目でロハ先生を見つめた。


「ごめんね、ヨワ。勝手なことして悪かったと思ってるよ。でも事はかなり逼迫ひっぱくしている。きみにも関係のあることなんだ」

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