いつもの通学路だったのに・・・

ブリル・バーナード

いつもの通学路だったのに・・・

 

作者からの注意!

残酷描写があります。グロ耐性がない読者様はブラウザバックしてください。

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 私、青芝あおしば春陽はるひはパジャマのままボケーっとテレビを眺めていた。視界はぼんやりと霞み、頭は寝ぼけてラグがある。髪は寝癖でボッサボサ。


「ほぇー……」


『―――次のニュースです。昨夜未明、小説こせつ市で頭部を切断された身元不明の女性の遺体が発見されました。警察は連続殺人として犯人の行方を追っています』


 うわぁー朝イチから気分が落ち込むニュースを見てしまった。ただでさえ朝が弱いのに今日はいつもより陰鬱な気分だ。


「春陽ー! ご飯食べないと遅刻するわよー!」


「ふぁーい……いただきましゅ……」


 忙しなく働く母の忠告を受け、目の前に並ぶ美味しそうな朝食にゆっくりと手をつける。

 ズズッとお味噌汁を啜り、白ご飯をパクリと一口。

 うん、今日も美味しい。お母さん、ありがとう。

 ご飯をパクパク食べていると、徐々に脳が覚醒し始め、シャキッとしてきた。


「春陽、アンタ今日も早いの?」


「あぁーうん。たぶん。短縮授業で部活も中止になってるから」


「最近物騒だからねぇ。必ず登下校は複数人で! 帰ったら戸締りをちゃんとしておくこと! いいわね?」


「わかってるよぉー」


 最近、親にも教師にも耳が痛くなるほど言われている言葉。

 全ては連続殺人犯の仕業。私が住む市の近くで事件が起こっているから。

 一体何件目だろう? 軽く五件は超えている。

 今回は小説市ねぇ……って、隣の市じゃん!?

 まさか自分の住む町の隣で猟奇的な殺人事件が起こるとは。前回は隣の隣の市だったよね?

 この市にだんだんと近づいていたりして……なんてね。


「そんなにゆっくりしていていいの?」


「大丈夫だいじょー……うげっ!? もうこんな時間!? やっばい! 待ち合わせに遅れちゃう!」


 時計の時刻は思ったよりも過ぎていた。

 ミッちゃんとサッちゃんとの約束時間に遅れちゃうぅ!

 朝食を勢いよくかき込み、ごちそうさま。


「何度も言ったのに」


 呆れ声のお母さんの言葉に反応する時間も余裕もない!

 片付けはお母さんがしておくから、と神よりもありがたいお言葉を頂き、私は洗面所にダッシュ! 

 歯ブラシを口に入れ、寝癖をヘアアイロンで直す。

 あぁー! こういう時に限って物凄く頑固で酷い寝癖なんだからぁ!

 急いでパジャマを脱ぎ捨て、制服を見に纏う。

 こういう時、引っかかって邪魔する部分がないと楽だよね……あはは。

 カバンを持ち、靴をひっかけて家を飛び出す。


「行ってきまーす」


 車に気を付けつつも、友人が待つであろう待ち合わせ場所へ全力疾走。

 幸い、場所は近かったため、30秒ほどでたどり着いた。


「お、おは、ぜぇ……ぜぇ……、お゛、おは」


「お、おはよー」


「お、おっは~。焦らなくても、今は呼吸を整えて」


 友人二人が若干引いている気もするが、今の私は余裕がない。絶賛呼吸困難中。し、死ぬぅ……酸素、酸素プリーズ!


「どしたー? また寝坊?」


 友人の一人、愛川あいかわ紗彩さあやちゃん、通称サッちゃんが問いかけてきた。いつも冷静で格好いい性格。男装が似合いそうな麗人。サッちゃんが男だったら私は惚れていた。女であっても惚れている。

 サッちゃん結婚してー!


「い、いやー、朝からのんびりしすぎてねぇ。まあ、夜更かしもしたんだけど!」


「また『Advent』?」


『Advent』とは『The Advent of a New Age』という名前のMMORPG、大規模多人数同時参加型オンライン・ロール・プレイング・ゲームだ。

 所謂、全世界の人と繋がることが出来るネットゲーム。私はそれにどっぷりと……いや、そこまではないんだが、夜遅くまで遊ぶほどには嵌っている。

 超絶レアアイテムを求めてボスモンスターを周回していたら、いつの間にか日付が二時間ほど過ぎていたんだよねぇ、あはは。


「わかるよぉー、その気持ち! 私も最近寝不足だよぉー」


 同意したのはもう一人の親友、宮山みややま未知みちちゃん、通称ミッちゃんだ。いつもニコニコ笑顔の天使。いつも優しくて、その豊満な胸で私を癒してくれて、もし私が男だったら絶対に惚れている。というか、女であっても惚れる。

 ミッちゃん、私のお嫁さんになって!

 目の下に若干隈があることから、寝不足なのは本当らしい。


「あれ、やり込み要素あるよねぇ。部位破壊で落ちるアイテムも変わるし」


「うげぇっ!? なにそれっ!? 私知らない!」


「えっ? そうなの? モンスターの首を落としたら生首が手に入るよ? おかげで私は首狩り兎ボーパルバニーと化しております。それでも欲しいヤツが手に入らなくてねぇ。判定も厳しいし、絶賛練習中です」


 なにそれ!? 部位破壊は知らなかったぁ。私、攻略サイトは見ない人だったけど、ちょっと覗いてみようかな。

 ちなみに、ミッちゃんは兎の獣人キャラをゲームでは使用している。

 ただ一人だけ『Advent』をしていないサッちゃんは適当に相槌を打ちながら聞き流している。そんな姿もクールで格好いい! 素敵!

 あぁ重~い、とミッちゃんが大きな荷物を持ち直したと同時に、驚異的な胸囲がポヨンと跳ねる。

 くっ! 何故私は……! ふ、ふ~んだ! いいもん! 着替えやすいから急いでいる朝には便利だもん!


「ハル。いつもいつも未知の胸を凝視するよね……血の涙を流しながら」


「……サッちゃんも私の敵だよ! 巨乳持つ者には貧乳持たない者の気持ちがわからないんだー!」


「いやいや。重いって言ったのは胸のことじゃなくて荷物のことだよ、ハルちゃん」


「ほぇ? 荷物? そう言えばなんで荷物多いの?」


 胸も重いけど、とコソッとさりげなく付け加えたミッちゃんの言葉は聞こえなかった。私は聞こえなかったのだぁー!

 よく見れば、サッちゃんも手荷物を持っている。対して私は普通のカバンだけ。


「今日、体育あるよ」


「最近暑いからさぁ、着替え、多く持ってきちゃった!」


「………………あぁっ!? 体育服持って来るの忘れたぁー!?」


 急いで家に取りに帰らなくちゃ!

 すっかり忘れてた。今日体育あるじゃん! 私の馬鹿ぁー!


「うんうん。あれがハルだよね。気を付けてー」


「私、ハルちゃんの慌てる姿好き!」


 サッちゃんの呆れた声も、ミッちゃんの嬉しそうな声も私にはもう届かない。

 全力疾走パート2だ!

 急げ急げー! 急がないと遅刻するぅー!



 無事に体育服をゲットした私は、全力疾走をもう1パートしなければならないことに気づき、この世界を呪うと同時に絶望したのだった。




 ▼▼▼




「サッちゃんバイバーイ!」


「さーや、また明日ー!」


「じゃあね。ハル、未知、気を付けて帰ってね」


 放課後、校門の前でサッちゃんと分かれる。最近、近くで連続殺人が発生しているので、サッちゃんは近くの祖父母の家に寄ることになっているらしい。仕事帰りの親の車に乗って帰るんだって。

 だから、下校時は私とミッちゃんの二人だけ。

 短縮授業で部活もない。今はだいたい午後3時過ぎ。先生たちに何度も何度も一人で帰るなと忠告され、校門まで見送りされる。

 いつもこれくらいの時間に帰れたらいいのに。

 ミッちゃんと二人でトボトボと歩く。


「ハルちゃん、お疲れだね」


「疲れたよー。朝から全力疾走を三回だよ!? あれで一日の体力を使い果たしました。ミッちゃん癒して~!」


「うわっ! あぁーもう! よしよ~し!」


「ごろにゃ~ん」


 むふっ、むふふ!

 なんという弾力。なんという柔らかさ。ミッちゃんのお胸は絶品じゃ。

 豊満なミッちゃんの胸に顔を埋め、スリスリする私。

 犯罪っぽいけど同性だから大丈夫! 本人の同意もあるから決してセクハラではない!

 思う存分至福のおっぱいで癒されよう。むふっ!

 はぁ……癒されるぅ。ミッちゃんは聖母だ。


「うわー。なんかハルちゃんがおじさんみたいだよ」


「ぐへへ。はい、私が変態なおじさんです」


「きゃー! 変態なおじさんにセクハラされてるー! でも、そんなハルちゃんも好き!」


 むぎゅーっと抱きしめられる私。

 うわっぷ! う、埋まる! 顔が埋まるっ!? く、空気が吸えない……さ、酸素がぁ~!


「んぅ~! んぅ~!」


「あっ、ごめんね」


「ぷはっ!? じ、じぬがどおもっだぁ~! ミッちゃんのおっぱいは凶器だよ!」


 な、何故私にはこの脂肪の塊がないのだろう? 太ればいいのか? それとも、目の前のブツをもぎ取る?

 危険を察知したのか、豊満な胸を隠して後退るミッちゃん。

 ちょっとくらい分けてくれてもいいじゃん!


「突然話は変わるんだけどさ、『Advent』でミッちゃんが欲しいアイテムってなに?」


「本当に突然だね。う~ん……いろいろ?」


「そのいろいろってなにっ!? 私も手伝うから!」


「死龍ハデスの生首?」


「はい?」


「海龍ポセイドンのも欲しいなぁ。あっ、雷龍ゼウスの生首も欲しいかも! 地龍ガイアとか天龍ウラノス、樹龍クロノスも!」


「全部ラストクエストの超高難度レイドボスじゃないですかぁー! ごめん無理です。私、レベルが足りません」


「レベル上げ、手伝ってあげようか?」


「神か!? 神がここにいた!? そ、そうだよ。なんで今までソロボッチをやっていたんだろう? ここにミッちゃんという名の親友&聖母&神がいたのに!」


「あははー。ハルちゃんってソロが好きなのかなぁって思ってたから……」


 そんなことはありません。いつも仲間を求めていたけど、誘う勇気がなかったボッチだったんです。

 やっぱり、持つべきものは親友だよね!


「私、頑張る! 頑張ってレベルを上げて、ミッちゃんが欲しいアイテムは何でもあげるよ!」


「そうなの? ありがとー!」


 むぎゅーっと抱きしめられて、ちょっと照れる。

 少し早足になったのは照れ隠しだ。でも、耳が熱かったから、ミッちゃんにはバレバレだったかも。


「……そうだ、ハルちゃん。もう一つ欲しいアイテムがあるんだけど、いいかな?」


「なになに? ミッちゃんのためなら何でもするよ!」


「ホント!? 嬉しい!」


 親友のおねだりにウキウキ気分で振り返った私の視界を、銀色の閃光が駆け抜けた。


「―――えっ?」


 突然、私の視界が反転した。

 意識が暗転ブラックアウトする。

 私が最期に見たのは、逆さまになった自分の胴体と噴き出す赤い液体、そして、体育服の大きなバックに入るくらいの銀色に輝く小太刀を振り抜いて、うっとりと陶酔した親友の笑顔だった。






















「あはっ♪ やっと欲しい生首が手に入った! 毎晩練習した甲斐があったなぁ!」



<完結>










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お読みいただきありがとうございました。

「五分で読書」に応募してみましたけど、朝読書で読む内容じゃないですよね……。


↓はちゃんとしたホラーなので読んでみてください。同じく応募作品です。


【タイトル】 ― 真名 ―

【キャッチコピー】 名前を呼んでも、見てもダメ。かごめかごめの歌が終わる時、彼女は・・・

【URL】 https://kakuyomu.jp/works/1177354054934495842



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いつもの通学路だったのに・・・ ブリル・バーナード @Crohn

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