第12話 プライベートゲートからこんにちは!
結果として昼食が食べられなくなった良太は、帰りたがらないリムを学校の外へと追いやり屋上へと上がった。
腹の鳴く音に気分をさらに落ち込ませながら、一人フェンスに手をかける。
曇っている天気の為か、絶好の昼食スポットである屋上に人の影は無く。冷たい風が良太のささくれた心を撫てくれた。
「浅野君?」
「え?」
誰もいないと思っていた屋上で背後から聞こえた声に驚いて振り向くと、そこには柊の姿が。
彼女は屋上に据えてあるベンチに腰を降ろし、膝の上で自身のお弁当を広げている。
「柊さん」
「妹さんはもう帰ったの?」
先ほど教室でのひと悶着を見ていた彼女はリムの事を良太の妹と勘違いしているようで、まだ一緒に居ると勘違いしているのだろう。
「いや、あいつは妹じゃなくて、家の……親戚なんだ。しばらくの間うちで面倒を見ることになってさ」
まさか魔王の娘が居候してますなどと言えない良太は、咄嗟に思いついた理由を説明する。とはいえ本当の事を言ったとしても信じてはもらえないだろう。
ぐぅ~。
タイミング悪く良太の腹の虫が大きく鳴り出す。
「お腹空いてるの? そういえばあの子にお弁当食べられちゃってたんだよね」
「はは」
「……よかったら……食べる? 私は全部食べなくても平気だから」
教室での醜態を思い出し顔を赤くする良太に、座ったままの柊は半分ほど残っている自身のお弁当を差し出してきた。
「……うぇぇぇぇっ!?」
曇天の空に響き渡る声を上げる。
目の前にあるのは柊梓のお弁当、綺麗に半分食べられてはいるが、良太には色とりどりの料理が詰まった宝石箱のように見えた。
「いらなかった……かな?」
「いやいやいやっ! いただきますっ!」
固まっている良太の反応に、若干寂しそうにしていように見える柊がお弁当を引っ込めようとするのを全力で止める。
「でも……」
「いただきますっ!」
こんな機会があるのだろうか。
学年でも1、2を争う美少女の、付き合いたい女子ランキングぶっちぎち1位の、しかも想いを寄せる相手。その弁当を食べられる機会などそうそうあるものでは無いのだ。
これを逃してはならない。
そう良太の全細胞が訴えかけている。
「いいんだよね? もらうよ? やっぱ止めるとか言わないよね」
「う、うん。そんなにお腹減ってたのね。いいよ。食べて」
少し引き気味の柊だが、今は、今だけはこの喜びだけを感じていよう。
そんな思いからゆっくりと柊の持つお弁当に手を伸ばした。
弁当箱に手が触れる直前、良太は下半身に違和感を感じる。なにやらズボンが突っ張っているのだ。
「あ、浅野……く、ん?」
「……っ?!」
柊の視線が目の前にある良太の下半身を見つめる。
それを追って良太も視線を下げる。
二人の視線が集まるのはあり得ない程に膨張したズボン。
生地が破れんばかりに広がり、そびえ立つスカイツリーのように主張している。
「き、きゃーーーーーっ!!」
「なーーーーーーーっ?!」
次の瞬間には顔を真っ赤にした柊が勢いよく立ち上がり、弁当箱を持ったまま屋上を逃げるように出て行ってしまう。
「柊っ! 違うんだっ!」
いくら否定を口にしようと、その言葉が彼女に届くことは無く。走り去る背中はドアを潜り見えなくなってしまった。
今までの人生で最大のチャンスを失った良太は、その場で膝を着くが、股間の膨張は続いている。
青少年の良太が好きな子の前で興奮していた。
そういうわけでは無い。
良太は期待にむねを膨らませてはいたが、邪な思いなど一切なく。それなのに柊が居なくなった今も股間は徐々に大きくなり続けていた。
「えっ!! えっ?! やばい?! やばいって」
ジ~ッ
焦る良太の耳にそんな音が聞こえてくる。それはちょうど大きくなった股間から聞こえる。
「なっ……!!」
もう一度視線を下げると、驚きの声が漏れ出た。良太の大事な箇所、プライベートゾーンが勝手に開いていくのだ。
昼間なのだが、心霊現象のような状況に、良太の背筋に冷たい物が走る。
「なに? なにっっ?!」
そして、混乱し固まる良太の視線の先でチャックが完全に開ききった。
次の瞬間
ズボッ!
何かがそこから顔を出す。
文字通り顔である。年配の男が良太の股間から生えているのだ。
その顔についている赤い眼と良太の視線が交差した。
「すまんな。ちょっと通らせてもらう」
そんな言葉を男が口にしたあと、物理の法則を無視し、男の両手がプライベートゲートから出てくる。当然抜け出れるほどの大きさなどあるわけが無いのに、良太のズボンは破れず、ゆっくりと男が抜け出してきた。
良太の身長を軽く超え、青い髪に口の周りに無精髭を生やして、コスプレのように中世風の衣服とマントを身に纏った40歳程の見知らぬ男。
だが、良太には男の頭部に生える物に見覚えがあった。
リムと同じような角が生えていたのだ。
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