第9話 学校で勉強は当たり前?!
食事を済ますと良太は制服に着替え、カバンを持って玄関へと向かう。
「良太……どこ行くの?」
「……学校だよ」
朝食を終えた後、またソファーにトリモチのようにくっついていたリムが、いつのまにか玄関まで来て声をかけてくる。
「カッコウ?」
「いや、学校っ! 勉強するところだよ」
「っつ?!」
リムの中で先ほどまでテレビに出ていた鳥の名前に変換される。それを短く訂正すると彼女は口元を三角にして信じられない物をみるような眼で良太を見てきた。
「学生だから、学校に行って勉強するのは当たり前なんだよ」
「……勉強をしに……わざわざ家から出る?」
「そうだよっ!」
「にゃっ!?」
何が驚きの元だったのかはわからないが、彼女にとっては勉強というワードは良くないものだったのかもしれない。
雷に打たれたように固まるリム。それほどショックだったのだろうかと首を傾げるが、彼女が勉強したくないから家出したと、そう話していた事を思い出し良太は苦笑いする。
「じゃあもう行くからな」
「……」
フリーズしているリムを放置して、良太は外に出る。彼女を相手にしていると時間がいくらあっても足りない。嵌めている腕時計を確認すると、もう走らなければ間に合わない時間を指していた。
「良太っ! 人間はどんな勉強をして……あれ? 消えた? 良太も魔法を使った?」
再起動にはゆうに数分を要し、リムが声を上げる頃には良太はいないのだが。
「良太? いる?」
リムの認識では急に姿の消えてしまった良太を探す為に、彼女は玄関マットの下から靴箱の中までを見てみるが当然そんなところにはいない。
玄関の隙間に居ない事を確認した彼女は、良太が姿を見えなくしたのだと、玄関の中を手探りで捜す。
「……リムちゃん。何してるの?」
「母っ! 良太が消えた。魔法使ったみたい」
ごそごそという音が気になった良太の母は、家事の手を止めて玄関にやってくる。そこには、一人宙に両手を伸ばして何かを探しているリムの姿があった。
「あのねリムちゃん。良太はさっき玄関を開けて学校に向かったわよ」
「っ?! ……いつの、間に……」
「あっ。そうだリムちゃん。良ければ良太に届け物をしてくれないかしら?」
目を丸くして驚くリムに、思い出したように両手を叩く良太の母は頼み事をする。せっかく作ったお弁当を、良太はテーブルの上に忘れて行ってしまったのだ。
「……が、っこう。勉強はしたくない」
「大丈夫よリムちゃん。届けるだけで、それに勉強はしなくていいし、良太の通っている学校の様子を見てきたらいいと思うの」
勉強まみれの日々だったのか、余程嫌いになってしまったのだろう。学校に届け物をするというお願いを聞き俯くリムに、良太の母は優しく説明する。
別世界の人とはいってもずっと家の中に籠り切りにさせるわけにはいかない。この機会に外を見て周ってもらおうと良太の母は考えたのだ。
「ん。それなら少しだけ興味ある」
「ありがとうリムちゃん。場所を教えるからリビングに来てね」
「わかった」
良太の母に場所の説明を受けたリムは意気揚々と玄関を潜る。人間界には彼女の好奇心を満たしてくれる場所だらけなのだから。
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