「──。」

 私は遥真先輩を探していた。

「ぜ、全然いない……」


 もうすぐ遥子先輩のライブが始まるというのに、私は全然彼を見つけることが出来なかった。


 私が心当たりのあるところは全部回ったし、遥真先輩のクラスに行って聞いてもここ三時間くらい見てないらしい。

 うーん。どこかですれ違ったのだろうか。


 もしかしてもう体育館へと行っているかもしれない。

 私は取り敢えず体育館へと向かった。


「え?」


 その時、すれ違ったその人物を振り返って見る。

 そこには、遥子先輩をクールで大人の女性にしたような感じの女性がいた。

(は、遥子せんぱ──いじゃない……)


 一瞬遥子先輩かと思った……。

 そう言えばいつか遥真先輩は姉と妹がいるって言ってたような……。 


 私は彼女に話しかけてみる。

「あの、すみません。遥真先輩のお姉さんですよね?」

「ん? ああ、そうだけど。あなたは……」

「あ、私遥真先輩の後輩で、魚形未空といいます」

「私は奏雨真凛。よろしくね」

「はい! ……あの、遥真先輩がどこにいるか心当たりはありませんか?」


「え? 遥真が?」

「はい、ずっと捜してるんですけど見当たらなくて……」

「いや、遥真は──」


「お姉ちゃーん! 来たよ!」

 お姉さんが何か言おうとしたその時、後ろからお姉さんへ誰かが抱きついた。


「わ、真那」

 お姉さんは少し驚いたような表情で抱きついた彼女を見る。

「えへへ、あれ? その人は?」


「ああ、この人は弟の後輩」

「へぇー、そうなんだ。かわいいね」


「えっ! いえいえ! そんな私なんて……。それにしても四人姉弟だったんですね」


「「え?」」


「私たちは三人姉弟ですけど……」

「え?」


 三人姉弟? つまりこのお二人と、遥真先輩だけって事……?

 いや、そんな筈は。

 だって遥子先輩は──。


「──あ」


 その時、ふと頭をよぎった一つの仮説。

 やけに似ている二人。

 今までの事が全て繋がっていく。


 もしかして、二人は──。


「す、すみません!」

 どういうことか理解した瞬間、私は走り出していた。

 顔はこれ以上無いくらいに熱くて、もうどんな顔をしているのかも分からない。

 しばらく走って立ち止まった。

 無我夢中で走ったので、ここがどこなのかは分からない。


「嘘……」


 今までのあれもこれも全部。


「私、これからどんな顔で接したらいいんだろう……」


「あれ、魚形さん?」

「は、はいっ!」

 後ろから声がかけられて、びっくりしながら振り向くと、そこにはアイドル衣装に身を包んだ遥子先輩がいた。

 無我夢中で走るあまり、気づかずに私はいつの間にかバックヤードにまで入り込んでしまっていたらしい。


「あ──」


 何を言うべきか分からなくて、口をぱくぱくさせていると、遥子先輩は心配そうな表情で私の顔をのぞき込んできた。


「? どうしたの?」

「うぅ……」


 遥子先輩がさらに顔を近づけてくる。

「なんか具合悪いみたいだけど大丈夫?」

「うぅぅぅ……」


 耐えきれなくなった私はまた走り出した。

「ご、ごめんなさい!」

「えっ!?」


 走り続ける。

「どうしよう……」


 どうしよう。


「ウソだ……」


 この鼓動。

 この気持ち。


「嘘だよ、だってこれは──」

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