思惑と後輩
正直なところ、始めて見た感想は「何だコイツ」だった。
急に横から入ってきて代役を務めたいと言い始める。しかも素人が。
何故か今日のライブの衣装を着ている彼女を観察する。
まぁ、確かに顔は悪くない。
しかし素人が今日のライブ曲を踊れるわけが……。
その懸念を察したのか、彼女は見せたほうが早いとばかりに踊り始めた。
透き通るような声で今日のメイン曲を歌い、ダンスを踊る。
「──ほぅ?」
これは驚いた。
まだダンスの動きは小さく、未完成なところがあるが、しっかりと踊れているし、歌も上手に歌えている。
これなら代役として、実力的にも問題ない。
そしてこれだけの容姿にこの歌声。そしてダンスも出来てスタイルも良い。
「──これはイケるな」
これは代役の六人目としても問題なく──、いやいっその事、彼女を幻の六人目としてグループに誘って……。
「よし、採用だ」
「プロデューサー!?」
張替が振り返り、俺を驚きの表情で見る。
「まだ甘い所もあるが、実力的には問題ない。これで行くぞ」
「いや、でも──」
「私は賛成だな。代役として十分務まると思う」
張替は納得していない様子で、どう説得しようかと悩んでいたその時、怪我をしているメンバーが助け舟を出してくれた。
「本人もそう言っている事だ。それに今の見たところでは別に問題ないだろう」
「それは、そうですけど……」
「元々四人で行くのは無茶があったんだ。それにこれはチャンス──いや、何でもない」
いけない。つい本音を言いそうになった。
「よし、そうと決まれば早速練習だ。ライブまでにしっかり仕上げるぞ」
ぱんぱんと手を叩いて、練習場へと行くよ促す。
移動中、俺は頭の中で高速で算盤を弾いていた。
膨らむ、膨らんで行くぞ。
将来の売り出し方まで考えたとき、はっと我に返る。
いや、いかんいかん。
これからはしっかりと練習を見なければ。
しかし、
「ふふ、ふふふ……」
算盤を弾くのを止められない。
これからが楽しみだ。
★★★
練習が一段落した頃、魚形が練習場所に顔を覗かせた。
「あのー……」
恐らく怪我をしたメンバーを気遣って来たのだろう。
表情はまだ暗かったが、僕を見ると驚愕したものに変わった。
「か、奏雨先輩!? 何やって──」
「あ、いや遥子の方なんだ」
「は、遥子先輩なんですか!?」
「うん、兄から連絡が来てね。私が代役を務める事になったんだ」
「えぇ!?」
「ま、こういうの得意だから」
そして「あ、そう言えば」と付け足す。
「それと、兄から『代役を立てたから、もう気に病むな』だってさ」
「……はいっ! ありがとうございます!」
「だから大丈夫、私に任せて」
「は、遥子せんぱいっ……!」
よし、これで魚形の懸念は取りされたかな。
「あの、遥真先輩にお礼言いたいんですけど、どこにいるか分かりますか?」
「あぁー……、えっと、ごめん。分かんないや」
「そうですか。じゃあ自分で探してみます!」
彼女を終わりのない旅に向かわせてしまった事を申し訳なく思っていると、張替が近づいて来た。
「ねぇ、なんでハルってこと隠すの?」
「いや……それは、なんか、恥ずかしいし」
「ふ〜〜ん」
「な、何?」
何故か張替が頬を膨らませて、僕を見ている。
「別に?」
ぷいっ、とそっぽを向いてしまった。
「?」
僕が首を捻っていると、メンバーの皆は呆れたように、はぁ、とため息をついていた。
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