出会い
「先輩早くー!」
「ハルほら走って!」
廊下の向こうでもう片付けを終わらせた二人が僕を呼んでいる。
「ちょっと待てって!」
メイド服から着替え、メイクを落とした僕は廊下の先で待つ魚形と張替の元へと急いで向かう。
「うわっ!」
「おっと」
その時。
急いでいたので、角からちょうど曲がってきた人物に気づかずぶつかってしまった。
どん、と衝撃。
男子生徒の胸に飛び込んだ形になった。
痛む鼻をさすってぶつかった人物を見上げる。
かなり高い。
一八〇センチはゆうに越しているんじゃないだろうか。そして、ネクタイの色から恐らく三年生だと分かった。
(い、イケメンだ……)
しかもかなり顔が整っている。
髪を茶髪に染めてセットしているが、チャラい印象は無く、むしろ好印象だ。
その先輩は、僕が今ぶつかったというのに、その整った顔に爽やかな笑顔を浮かべて、大丈夫かと聞いてきた。
「大丈夫?」
「あ、すみません……」
「いや、俺も──」
そのイケメンの先輩は僕の顔を見ると、眉を少しだけ顰めた。
「君は……」
「?」
「ああ、ごめん何でもない」
何か感じることがあったようだが、すぐに頭を振って表情を笑顔に戻す。
「それじゃ、ごめんな」
「あ、はい。こちらこそ」
先輩はそう言うと、歩いて行ってしまった。
「先輩、大丈夫ですか?」
すぐに魚形と張替がやってきて、魚形が心配そうに僕に声をかけてくる。
(ん?)
張替が今の先輩の後ろ姿をじっと見つめていた。
「張替?」
「ん? ああ何でもないよ」
張替がひらひらと手を振る。
その時の僕は、これをあまり疑問に感じてはいなかった。
★★★
女の子とデート。
一般の男子高校生なら胸がときめく単語だろう。
本来ならば。
土曜日。僕は今、駅で待ち合わせをしていた。
待っている相手は女の子。
そう、これから始まるのはいわゆるデートというものだ。
「はぁ……」
だというのに、とある理由から僕は憂鬱な表情で顔をずっと伏せていた。
「先輩! お待たせしました!」
顔を上げると、髪を下ろしてお洒落した魚形が目の前に立っていた。
いつもより大人びた感じになっていて、とてもかわいい。
「先輩! お似合いですよ!」
「ああ、うんありがとう……」
魚形が笑顔で僕の服装を褒めてくれるが、やっぱり嬉しくない……。
そう、今の僕は女の子なのだ。
姉が選んだ服装に姉の好みのメイク。最後の抵抗で前髪だけは長くして顔を隠したが、他は全部姉の趣味に染まっている。
結果、かなり綺麗なお姉さん、というイメージになっていた。
メイクが終わった後、姉に「あんた才能あるよ」と言われたが、こんな才能欲しくなかった。
「いやー、眼福です!」
いや、僕がこんな格好なのも、そもそもお前が無理矢理約束を取り付けたせいだからな。
「それじゃ行きましょう!」
そう言って魚形が僕の手を握ってきた。
「え?」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
僕が手を繋ぐのを拒否すると、魚形はとても傷ついた表情になった。
そのため罪悪感にかられた僕はつい手を繋ぐのを許してしまう。
「いや、別に大丈夫だけど……」
「ありがとございます!」
魚形がとびきりの笑顔で、するりと僕の手の中に滑り込ませると、ぎゅっと握る。
そうして僕達のデートが始まった。
手をしっかりと握ったまま、街を歩いていく。
手を繋いでいるため、すれ違う人達から凄く見られてる気がするが、隣の魚形は全く気にしていない様子だ。
しばらく買い物などをしながら街を歩いていると、元気な挨拶が聞こえてきた。
声の方向を向くと、メイドさんがチラシを配っていた。
どうやらそこでやっているメイド喫茶の宣伝のようだ。
「いらっしゃいませ!」
横を通った僕にもチラシが差し出される。
チラシを受け取ろうと腕を伸ばしたその時。
一つ疑問が浮かんだ。
──ん? でもなんかこの声聞いたことあるような……。
顔を上げてしっかりと相手を見る。
「え?」
そこにいたのは。
「──櫻井?」
笑顔でチラシを配っているメイド姿の櫻井優衣だった。
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