お披露目と嫉妬

「お待たせー! 終わったよー!」

 ドアを開けると、教室中の視線が集まった。

 あまり顔を見られないように俯いて顔を隠す。

 女装姿を見られるのは始めてなので、ちょっと恥ずかしい……。


 ……。

 …………あれ?


 皆なんで黙ってるんだろう。

 顔を上げる髪の隙間から皆を見ると、全員が僕の女装姿を無言で見つめていた。


 え、何かおかしかった?

 もしかして絶望的に似合ってない、とか?


 誰も何も言わないので、ちょっと心配なってきたところ、「かわいい……」と女子の誰かが呟いた。


 瞬間、クラスがどっと湧き上がる。


「えーーっ! かわいい!」

「これほんとに奏雨くん!?」

「思ったより全然似合ってるじゃん!」

「めっちゃ肌キレー!」

「脚ほっそい!」


 クラスの女子が僕の方へと集まってきた。

 あっという間に女子に囲まれ、身動きが取れなくなってしまう。


「すごーい! 男の子に見えないんだけど!」

「ええっと……」

「ちょっと写真撮っていい!?」

「え?」


 女子が僕の横にくっついて来て、スマホの内カメラでいわゆる自撮りをする。

「いえーい!」

「あ、私も私もー!」

 次々と女子たちが僕と写真を撮ろうと寄ってくる。

 そうしているうちに女子たちに囲まれ、撮影会が始まってしまった。

 ちなみに張替はさっきからずっと無言でシャッターを切り続けている。目が本気で怖い。


「こっち見て!」

 次の女子が隣に並ぶ時に腕を絡めてきた。

 ていうかさっきから女子たちの距離が近い。

 女子は皆これぐらいなのか?


 僕が女子に囲まれている間、男子は遠巻きに僕を見て呟いていた。

「あれが本当に陰キャの奏雨……?」

「髪の隙間から見える顔、完全に美少女じゃん……」


 え、やっぱ見えてたのか!?

 この髪の毛の下、普通にいつものメイクなのに!?


 慌てて前髪を整えて顔を隠そうとするが、もう遅い。

「わ、前髪気にしてるー!」

「かわいいー!」

「いや違うから!」


 普通に顔を隠したいだけだ!


 そんなやり取りをしている間、ずっと僕の事を睨んでいる人物。

 津瀬だ。


「ちっ、なんか買いに行こーぜ」

 津瀬ら舌打ちをすると、周りの仲間達にそう言って机から立ち上がる。

 そして津瀬は不機嫌にクラスから出ていった。

 僕はその姿を女子に囲まれながら見送る。


 それにしてもお前、その姿メイド服で行くのか……。




★★★




 一時間ほど続いた撮影会も終わり、クラスではそろそろ片付けの準備を始めていた。

 各々が化粧道具やら、メイド服やらを片付ける。

 僕もメイド服を脱ごうと移動し始めたその時。


「奏雨せんぱーい、帰りま──」

 教室のドアからひょこ、と顔を覗かせてきた魚形が、僕を見て一瞬固まる。


「は、遥子せんぱ──いじゃないですね」

「あ、ああ。遥真のほうだ」


 危なかった……。

 一瞬バレたかと思った。


「びっくりしました……。メイド喫茶でもされるんですか?」

「そうなんだよ。男子もメイドだってさ」

 メイド喫茶になったあらましを説明すると、魚形は「なるほどー」と言って頷く。


「大変そうですね。それにしても、流石は遥子先輩のお兄さんですね! 凄く似合ってますよ!」

「ああ、ありがとう……」


 せっかく褒めて貰ったけど、あんまり嬉しくない……。

 僕は最近女装しててアレだけど、男なのだ。

 『かわいい』と言われて喜ぶ男子は少数派だろう。


「じゃあ帰るか。張替は……?」

 張替はどこにいるのかと、辺りを見渡す。

 その時、足元の方からパシャリと音が鳴った。


 下を見る。

 床に寝そべってスカートの中を撮っている張替がいた。

「うわぁっ‼」

 びっくりして飛び退くが、張替はその動きにすらも合わせてもう一枚撮った。


「何やってんだよ!」

 スカートを押さえて、中を撮れないようにすると、張替はそのまま床にぺたんと座ったままスマホに頬擦りし始めた。


「男の娘最高……」

「消せ! 今すぐ消せ!」

「消しませーん! もう一生の宝物だもんね!」

「僕の黒歴史を一生残すのはやめろ!」


 張替と揉み合っていると、「え?」と魚形の

声が聞こえた。

 魚形見ると、ぽかーん、と僕達を見つめていた。

 ってそうか。魚形は張替の女装狂いっぷりを知らないのか。


「嘘……」

 ああ、やっぱりそうなるよな。

 張替のこの状態を見たらちょっと──。


「奏雨先輩めちゃくちゃ遥子先輩に似てますね!」


「え!?」


 そっち!?


 魚形は僕の顔をみてきらきらと目を輝かせていた。

 どうやらさっきの張替との揉み合いで顔が見えてたらしい。


「あ、あのもうちょっとよく見せてください!」

 魚形がそう言って僕の手を握り、詰め寄ってきた。

 ていうかぐいぐい来るな!?


 僕が遥子先輩に似てると分かった瞬間、急に距離を縮めてきた。


「こ、今度一緒にお出かけしましょう! そっちの女装姿で!」

 何かおかしな事をいいだす魚形。

 僕を女装させて連れ歩きたいなんて、こいつも張替と同様やばい奴なのか!?

「嫌だよ‼」


 その後、行くと約束するまで魚形は手を離してくれなかった。


 

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