兆候

「いやいや、ちょっと待て!」


 思わず僕は叫び出していた。

 視線が僕に集まるが、今はそんな事を気にしてられない。

「男子もってそんなのムリだろ!」

「え、なになに? 怖いの?」

 張替がにやりと笑って僕を挑発してくるが、僕は意に返さず反論する。


「いや、皆やりたくないって絶対!」


 自分でそう言ってからはっと気づいた。

 そうか、そうだ。男子の皆だって女装したいわけがない!

 男子の皆が反対してくれたら!

 張替の意見に反対してくれるだろうと、期待の眼差しで周りを見渡す。


「いや、いいんじゃないかこれ!」

「へー、おもしろそうじゃん!」

「確かに男子もメイドの格好してるのはインパクトあるかも」


 嘘だろ……!?

 クラスの皆は何故か張替の案に乗り気なようだ。

 張替がこっちを向いてバカにしたように笑う。


 む、ムカつく……!


 怒りに拳を震わせていると、クラスの隅に固まった陽キャの集団が僕へと叫んだ。


「おい、ごちゃごちゃ言ってんなよ!」

「そーだそーだ。もう決まったんだよ!」


 な、なんだこいつら急に。

 いきなり横から言葉を入れてきた陽キャたちに少し驚く。


「いや、でも……」

 女装する事に抵抗がある僕が往生際悪く渋っていると、またもや横から陽キャが叫ぶ。


「それなら自分で意見出せよ!」


「ぐっ……!」

 最もな正論。

 陽キャの言葉で明らかに言葉を詰まらせた僕を見て、陽キャたちが笑った。


 なんかムカつくが、言ってる事は正しい。


 考えろ、考えるんだ!

 何かないか、女装を回避する方法……!

 このままじゃ確実に女装コースだ!


 そして思いついたアイデアは。



「スマホの写真展覧会!」


 クラスの出し物はメイド喫茶に決まった。



★★★




 LHRが終わると、僕は張替を空き教室まで呼び出して問い詰めていた。


「どういうつもりなんだよ!」

「だいじょぶだいじょぶ。メイク変えるから!」

「そういう問題じゃなくて! 何で急に女装なんだよ!」

「だって、ハルの可愛さを皆に知って欲しかったから……」


 張替がしゅん、として呟く。

 それを見て、一瞬「まあいいか」と思ってしまったが、慌てて頭を振る。

 いや、騙されない。騙されないぞ僕は。


「そんなことしても無駄だからな」


「ちっ」

 僕に泣き落としが通用しないと知った途端、張替は態度を豹変させた。

 ていうか今、舌打ちしなかった?


「ていうか、魚形だってあっちの僕を知ってるんだぞ。それはどうするんだよ」

「う……」

 そう、僕の女装姿は魚形には『奏雨遥子』として通っているのだ。

 僕がメイド喫茶をやってるなんて知ったら、絶対に見にくるだろう。


「お願い! ちゃんと別人に見えるようにするから!」

 すると張替は、今までとは打って変わってしっかりとしたお願いをしてくる。

 その姿を見て、僕は方の力を抜きため息をついた。


「分かった。その代わりちゃんと変装頼むぞ」

 まあメイド喫茶をやることはもう決定事項だしな。

 それに、僕をあそこまで変身させた張替の技術だ。

 きっと何とかなるだろう。


「ありがと! 絶対後悔させないから!」

「頼むぞほんと……」

 張替がとびきりの笑顔でお礼を言ってくるが、正直その笑顔を見て大丈夫だった試しがないんだよな……。

 


 クラスへ戻ると、早速文化祭に向けての準備を始めていた。

 必要な資材の調達に各々が奔走している。

 その中で一瞬とは言え、抜けてしまったのでその分働こうと、仕事を実行委員に聞きに行く。


「何か仕事ある?」

「ん? ああ、じゃあ余ってるダンボール貰ってきてくれる?」


 実行委員から仕事を貰うと、すぐさま達成すべく廊下へと出た。


「おい」

 突然、声がかけられる。

 

 振り返ると、そこには男子の陽キャ三人組が立っていた。

 真ん中に立つ人物は僕を睨み、左右に立つ二人は明らかに僕を見て嘲笑している。

 横の二人は分からないが、真ん中の金髪の彼の名前は憶えている。

 確か──津瀬草太だ。


 津瀬は僕の方へと向かって歩いてきて、ぽん、と肩に手を置く。

「あんま調子のんな」

 すれ違いざま、津瀬が僕だけに聞こえる声でそう呟くき、三人は歩いていった。


 その背中を僕は無言で見送って、ため息をつく。


「厄介なのに絡まれたな……」

 メイド喫茶の他にもう一つ増えた悩みを抱えて、僕はダンボールを取りに向かった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



遅くなってすみません!

それと後から付け足した話もあるのでそちらも是非見てください! ★がついてます!

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