本番と文化祭

 あれから二週間。僕達は毎日集まって勉強をした。

 平日は図書室で。休日にはファミレスでと分からない所を教えあった。

 魚形に関しては夜にも公園で集まって分からない所を教えたりと、色々と大変だったが、どうにか学力を最低限まで伸ばすことができたはずだ。


 そして本番当日。


「今日がテストか……」

「き、緊張しますね……」

 朝、駅で待ち合わせしていた僕達は一緒に登校していた。

 魚形はいつもの元気が無く、少し笑顔が固い。


「緊張するなって。たかがテストなんだし」

「たかがテストでも緊張するものは緊張しますよ」


 魚形はいつになくネガティブだ。

「自分を信じろって」

「……」


 魚形の反応が無い。

 どうやら大分緊張しているようだ。


 仕方ない。こういう時は……。


「はっ!」

「痛っ!」

 びしっ! と魚形の頭にチョップする。

 突然チョップされた魚形は困惑した表情で頭を押さえて僕を見た。

 そんな魚形を見て僕はにっと笑う。


「今まで頑張ってきたから絶対に大丈夫だ」

「……はい! 頑張ってきます!」


 魚形が拳を握って頷く。

 よし、これだ大丈夫そうだな。


 学校へ着くと下駄箱前で別れ、それぞれの教室へと向かった。


 テスト開始だ。




 一週間後。

 結果発表の日。


 僕は自分の順位を見るより先に、魚形のところへ向かっていた。

 一年生の結果が発表されている所まで走っていくと、魚形が結果発表の紙を呆然と見上げているところだった。


「魚形!」

「あ、あれ……」

 魚形が指差した方を見てみる。


 『五十位』の下にある魚形の名前。


「……やった。やりました! 先輩!」

 魚形は徐々に実感してきたようで、表情が明るいものに変っていく。

 頑張りを見ていた僕も、自分の事のように喜んだ。

「ああ、やったな!」


「はい! ありがとございます! ……ってあれ?」

 魚形の目から、小さな涙が溢れた。

 不思議そうにそれを拭って、小さく笑う。

「あはは、なんか安心して緩んじゃったみたいです……」

「よく頑張ったよ、ほんと」


 そう言うと、少し考え込む。

 そしてすっと手を上げた。

 魚形一瞬「え」と声を上げたが、すぐに僕の意図に気づいてもう一度涙を指で拭うと、にっと笑って同じように手を上げた。


 ぱちん、と小さな音が鳴った。



 テストの結果発表が終わると、LHRの時間になった。

 担任が教卓に立ってプリント等を配布していく。

 そして連絡事項を粗方伝えると、最後にこう言った。

「あー、そろそろ文化祭の時期だ。今日のLHRではクラスの出し物について話し合って欲しい」


 『文化祭』という言葉で一気に盛り上がるクラス。


 文化祭。もうそんな時期なのか。

 まあ、僕はいつも通り目立たないところで適当にやるだろう。


 大して興味が無かったので、机に肘をついてぼーっと聞き流す。

 視界の隅で「ふふふ」と張替が笑っているが、気のせいだろう。


 担任の連絡事項が全て伝えられると出し物を決める時間になった。

 実行委員の二人が教卓の前に立って、進行していく。


「じゃあ、取り敢えずなんでもいいんで、アイデア出していってくださーい」


「お化け屋敷!」

「クレープ屋!」

「カジノ!」


 順調にアイデアが挙げられていく。

 黒板に書かれたアイデアが二十に届きそうなその時、張替が勢いよく手を上げた。


「はいはーい! クラス全員でメイド喫茶!」


 へぇ、メイド喫茶。あの張替にしては常識的と言える選択肢だ。


 ……ん? 待て。

 『クラス全員』……?


 普通出し物はクラス全員でやるものだ。何故それを今さら強調したんだろう?


 実行委員の男子もあまり意味を捉えられなかったようで、張替に聞き返す。


「えっと、それはどういう意味かな?」

「え? そのままだけど」


 張替は自慢気に胸を張ると、すぅっと息を吸った。



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