勉強会

 放課後は、半分ぐらいの割合で図書室へと行く。


 図書室はいい。


 参考書には事欠かないし、英語勉強用のCDだって貸し出している。なんなら勉強に飽きた時の暇つぶしだってある。


 教室の視線からそそくさと逃げ出した僕は今、図書室に来ていた。

 適当な場所に座ると、鞄から勉強道具を取り出し、黙々と勉強し始める。


 その時、誰かが僕の隣に座った。


 なんで他にも席は空いてるのに、わざわざ僕の隣に来たのだろうか。

 横を見ると、そこにいたのは張替だった。


 僕と目が合うなり笑顔で手を降ってくる。

 図書室には他に誰もいないが、一応最小限の声で話しかける。


「なんで来たんだよ」

「私も勉強しようと思って」

「別に僕の隣じゃなくてもいいだろ」

「いやいや、勉強を教えて欲しいのだよ」


 活動があるからまとまった勉強時間取れなくて、とのことだそうだ。

 要は遅れた分を取り戻したいらしい。


「お願い!」

 ぱしん! と張替が手を合わせてお願いしてくる。


 まあそれくらないなら問題ないか。

 教えることは効率のいい勉強になるって言うし。


「……どこ教えて欲しいんだよ」

「やった、ありがと!」


 張替がいそいそと鞄から教科書を取り出す。


「ここなんだけど……」

「ああ、そこは──」




★★★




「んーっ! 疲れたー」

 張替が軽く伸びをする。


 張替は元々の地頭がいいのだろう。すぐに理解するので教える方も楽だった。


 張替が頬杖をついて僕を見る。


「ねぇ、君はなんの為に勉強するの?」

「……学生の本分は勉強だろ」

「そうじゃなくて、その先の目標とかは無いの?」


「ま、一つは良い大学に入って良い会社に就職する為だな」


「他にもあるの?」


「……周りに馴染めなかったんだよ」


「馴染めない?」


「友達と遊ぶとか、そういう事に意味を見いだせなかったってこと」


 そこで、一旦言葉を区切る。


「だから、その分の熱量を今は勉強に当ててる」


 そう言うと、張替は優しく笑う。

「君も、頑張ってるんだね」

「別にそうでもない」

「頑張ってるよ。えらいえらい」


 頭を撫でてこようとしたので、さっと避ける。


「次の問題行くぞ」

「あはは、はーい」


 またしばらくの勉強タイム。


 そこから一時間程して、最終下校時間を告げるチャイムが鳴った。

「あれ、もうそんな時間か」


 どうやら思ったより張替に教えることに集中していたらしい。


「あー、めっちゃ分かりやすかった! さすが学年一位!」

「ふん、このくらい当然だ」


 眼鏡をくいっと持ち上げる。

 張替が吹き出した。


「なんで笑った」

「いやごめんごめん。あんまりにも典型的なメガネクイッだったから」

 そう言ってまた笑い出す。

 張替のツボが読めない。


 張替はひとしきり笑ってから、目尻の涙を指で拭った。

「さ、帰ろっか」

「そうだな」


 僕も勉強道具を片付けて立ち上がった。

 先に扉の所まで行って張替を待つ。

 なんとなく手持ち無沙汰だったので、新刊の棚を覗いていると、ある雑誌を見つけた。


 表紙にはの隅に小さく張替の所属するアイドルグループが載っていた。


 ページをめくって張替がインタビューを受けているところを見てみる。

 どうやら新しいシングルが決まったようで、インタビューはそれについて質問していた。


 インタビューの中で、張替は必死に受け答えをしている。


(あいつも頑張ってるんだな)


「ほうほう、私に興味がおありかな?」

「うわっ!」


 気づけばいつの間にか後ろに張替が立っていた。慌てて雑誌を閉じるが、張替のいるところを見ていたのは、しっかりと見られている。


 張替は僕の顔をのぞき込んでにやにやと笑う。

「そっか、気になっちゃうか〜」

「う、うるさい! 早く帰るぞ!」


 雑誌を棚に戻して図書室を出る。

 隣に並んだ張替は、校門を出るまでずっと上機嫌に鼻歌を歌っていた。

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