第3話

そしてそこで俺は全裸にされた。


服も全部調べられた。


ズボンのポケットまで。


となるとあれというのは、わりと小さいもののようだ。父が言った。


「おい、ないぞ。たかひろ、どこへやった!」


俺はそこで言った。


「なにも覚えてない」


「えっ?」


「えっ?」


父と弟が同時に言った。


俺は父の手を取ると、自分の後頭部にあてた。


自分の手を見て父が言った。


「えっ、おまえ」


「崖から落ちて、頭を打った。ここがどこなのか自分が誰なのかもわからない。あんたたちのことも、まるで覚えてない。あれがいったいなんなのかも、まるでわからない。覚えてないんだ」


父と弟がお互いの顔を見た。


「本当か?」


父がそう言い、俺は大きくうなずいた。


弟が言った。


「嘘ついてるんじゃないのか」


「頭に怪我をしているのは確かなようだが」


「地下に閉じ込めればいいじゃろう」


老人特有だが力強い声が響いた。


振り返ると、いつの間にか老いた男が鋭い眼で俺を見ていた。


父と弟はしばらく考えていたが、やがて父が言った。


「とりあえずそうするか。嘘だったとしても、いずれ白状するようになるだろうし、記憶をなくしたと言うのが本当だとしても、そのうち思い出すかもしれん」

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