虚無を見つめる眼

ツヨシ

第1話

定期的にキャンプに行っていた。

行く先は常に青木ヶ原の樹海だ。

樹海と言うと負のイメージを持つ人が多いが、キャンプ場や遊歩道もあり、けっこう遊べる場所だ。

今日も駐車場に車を停めて、目的地まで歩いていこうとした。

するとなんとなく一台の車が目に止まった。

大型の紫の車。

車自体が目立つ車だが、それ以上に俺の気を引いたのは、運転席に人がいたことだ。

止まっている車の中に人がいることはさして珍しくないが、問題なのはその見た目だ。

痩せた中年男で驚くほどに生気のない顔。

そしてスーツ姿。

どう見ても青木ヶ原に遊びに来ましたという雰囲気ではない。

目もうつろで視線が定まらず、どこを見ているのかわからない。

まるで虚無を見ているかのようだ。

ひょっとして、とも思ったが、俺にはどうすることもできないし、どうするつもりもない。

そのままキャンプ場に向かった。

一泊のキャンプを終えて、駐車場に戻った。

すると例の車が同じところに停まっていて、おまけに運転席に昨日見た男が座っている。

ずっとそこにいたわけでもないだろうが、なんとなく不気味だ。

――なんなんだ、あれは?

気にはなったが、そのまま家に帰った。


数ヵ月後に青木ヶ原に来てみると、駐車場の同じところに例の紫の車が停まっていた。

運転席には同じやせた中年男が。

俺がまじまじと見つめているにもかかわらず、男はそのまま虚空に目を泳がせている。

――気味が悪いなあ。

俺はそう思った。

次の日、キャンプを終えて駐車場に戻ると、車と男はそこにいた。


あれから数年が経った。

例の紫の車は全てのタイヤの空気が抜け、車のあちこちがさび付き、窓が一枚割れた状態でまだ駐車場にあった。

そしてあの男も、相変わらず運転席で虚無を見ていたのだ。


       終

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