くじ引きの第七話。

 委員会はそのまま順当に決まり、俺たちは無事クラス行事委員会に就任した。ブラックとの噂だが、まあ頑張ろう。


 そして次は何か別に決めることがあるらしく、新たに学級代表委員会にいた二人が前に出て話していた。


「学級代表になった葉山真玲ですっ!これから、約二週間後に迫った遠足について、決めたいことがあります」


 お、葉山さんだ。学級代表だったのか。


 ...てことは、俺が誘われてた(かもしれない)委員会って学級代表委員会だったのか。人前に立つはあんまり好きじゃないし無理です。


「それは───班決めだっ!...あ、どもども。三船みふね健斗けんとですよ~」


 少しテンション高めな眼鏡の男子がもう一人の学級代表ね。三船くん、キャラ濃そうだな...。

 

 そして、遠足。


 第二学年の四月に行われる都内限定の遠足は、班でそれぞれ行きたいところを決めて計画を立てて行う。親睦しんぼくを深めるのが目的とされているが、秋に待つ修学旅行の練習も兼ねていると聞いたことがある。


「そして班は、『ドキドキ!?くじ引き♡』で決めるぜ」


 なるほど、くじ引きなのか。まあ確かに、ほぼ初対面な新クラスであることを考えれば理にかなっている。

 ぼっちがあぶれたりすることはないし、同じ部活で徒党を組むやからたちを、くじ引きであれば分断できる。陽キャは一人になれば全然怖くないって古事記にも乗ってっから。むしろ、仲間を必死に探してキョロキョロしている姿は可愛さすら感じる。


 とまあ俺はくじ引きに賛成だったのだが、月見里さんは大層不服そうだ。


「...あなたと同じ班になれないじゃない......」

「あ?なに」

「あ、いえ。なんでもないわ。こっちの話」


 同じ班がなんたら、と聞こえたが、どうせ彼女の計画とやらについての話だろう。

 もう慣れたし、俺は段々、不本意ながら偽カップルを受け入れつつある。ホ、ホントに嫌々なんだからねっ!


「さあさあさあ!左のヒトから順番に引いていってくれ...運命の紙を」


 三船くんが仰々ぎょうぎょうしく言うと、男子共が途端に合掌がっしょうし始めた。


『ああ神様。どうか田中さくらと一緒の班に...』

『お願いします何でもしますから』

『I am open to god...so Please!』

『俺、夕陽きゅんと同じ班がいい...』


 こいつらマジで怖いわ...。しかし隣では、月見里さんも同じように祈っている。


「同じ班同じ班同じ班同じ班...」


 怖い怖い。お前をそこまでさせる理由ってなんだよ...。


 左前の席の男子が手を合わせながら席を立ち、三船くんが持っている穴の開いた箱に手を入れる。続いてその後ろの席の人も同じように離席し、折られた一枚の紙を取る。


 俺はぼーっと眺めていたが、左隣の彼女が席を立った瞬間に周囲が騒がしくなったので我にかえった。

 月見里さんはその喧噪に狼狽うろたえることなくしずしずと歩き、一片の紙を掴んだ。


「...何番だった?」


 興味本位で聞くと、着席しながら答えてくれる。


「『4』番だから、四班ね」


『あ、俺、なんか四番引ける気がしてきた』

『出席番号が四番の俺って、もはやお揃いだよね』

『月見里さんは何番でも似合う(迫真)』

『くそおおおおおっ!なんで『3』!?!?』


 断末だんまつごとく絶叫しているのは既に紙を引いた左前の男子...あ、おい。泣くな。


 そこからはもう、男子のみ阿鼻あびきょうかんの抽選会場と化していった。月見里さんの後に数人引いて、ついに俺の番。


 席を立とうとすると、月見里さんが声を掛けてくる。


「四番以外だったら許さないからね。マジで」

「...善処します」


 どうしろっていうんだよ...。

 しかし本当に四番以外を引いてしまったときが怖いので、多少は心の中で祈っておく。普段はおろか、年末年始すら神社になんて行かないおのれのみを信じる強き男だが、結局、困ったときは神頼みだ。


 ガサゴソと箱の中をまさぐり、ビビッときたわら半紙をつまむ。


 薄灰色の折り目を戻し、そこに記されていた数字は...うん、うん。なるほど。


「...何番?」

「何番だと思う?」

「そういうのいらないから」


 問うてくる月見里さんには、なぜだか緊張感が漂っていた。


 俺は得意げに紙を見せる。全く、運がいいんだか悪いんだか。


「『4』だ」

「......あら、当たり前よね。私の彼氏なんだもの」


 表情こそ仏頂面ぶっちょうづらだが、机の下で小さくガッツポーズしてるの、俺には見えてるからな。

 その言動のミスマッチが面白くて、思わず笑ってしまう。


「...なに笑ってんの」


 彼女はジト目だ。


「いや、なんでもない」


 しかし、可愛いところもあるんだな。これがギャップってやつか...まあ性悪しょうわるには変わりないんだけれども。


『『ホント、なに笑ってんの?』』


 こいつらにも、そのくらいの可愛さがあればなあ...。


 四番以外の紙を引いた男子たちの殺意のこもった視線を受けながら席に座った。

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