委員会の第六話。

 三限目の体育が終わり、着替えて二年七組の教室へ戻った。今日は短縮時程だから、次の四限のホームルームで下校となる。確か委員会を決めるとかなんとか言ってた。


「夕陽は何の委員会にするんだ?」


 右隣の中野くんが親しげに話しかけてくる。例の体育での取引のあと、男子どもとは和解して仲良くなった。まあただ単に、くだんの写真がお目当てなだけなんだろうけど。

 追われるよりはマシであるが、問題は写真を如何いかにして手に入れるかである。スリーサイズよりも断然、彼女にお願いしづらいし。


「まだ決めてないなあ...」


 相槌あいづちを打ちながらも思考を巡らせる。学校で写真を撮るなんてできないし......あざれあ荘に帰ってから考えよう。うん、後回し後回し。


「俺は保健委員会にするぜ。なぜならエロいイベントが一番起こりやすいからな」

「おう、そうか」


 こいつの脳は下半身についているのか...?


 左隣の月見里さんは急に男子と仲良さそうにしている俺を見て、首をかしげていた。



* * *



「私とあなたは、同じ委員会に入ります」


 始まりのチャイムが鳴って開口一番、月見里さんは宣言した。


「拒否権は」

「ないわ」


 知ってた。まあ別に拒否することでもないんだけど。


「...どの委員会に入る?」


 黒板に記された二十以上の委員会に目をりながら問うと、即答が返ってきた。


「クラス行事委員会ね」


 クラス行事委員会って確か、体育祭とか文化祭とかの際にクラスのリーダーとなって引っ張っていくお仕事だった気がする。去年のクラスでは、陽キャの人が「ウェーイ」って言いながら適当にやっていた記憶。


 でもどうしてその委員会なのだろう。俺を偽彼氏に任命した目的と関係があるのだろうか。


「なんか理由とかってあるのか」


 聞くと、彼女はわずかに言いよどむ。


「......そうだったからよ」

「え?なんて?」

「楽しそうだったからよ。何か文句ある?」


 少しだけ頬を朱色に染めながらすごむ月見里さんに、普段のような威厳は無かった。それがちょっと可笑おかしくて笑っていると、彼女は不機嫌そうに席を立った。


「...じゃあ、黒板に書いてくるわね」

「おう」


 黒板は既に、半分以上の名前で埋まっていた。しかし、クラス行事委員会は未だ立候補者がいない状況である。

 まあ、大変そうだしな...。でも、やりがいのある仕事だと思う。何より青春っぽいから俺も賛成だ。


 てくてくと歩く月見里さんを見送っていると、前の席の女の子が振り返る。ポニーテールが揺れた。


「...宮原くんは、やっぱりカノジョさんと一緒?」

 

 月見里さんがいなくなったのをはからってか、葉山さんが尋ねてきた。


「うん。そのつもりだけど」

「そっか...そうだよね......」


 俺が答えると、葉山さんは落胆したようにつぶやく。

 どうしたのだろう。なんでそんなに落ち込んでるんだ?まさか俺を同じ委員会に誘おうとしたとか...なんて。それはさすがにうぬれ過ぎか。


「なんか、ごめん」


 普段は明るいであろう彼女に暗い表情をさせてしまっていることに罪悪感を覚え、俺は謝罪の言葉を口にした。葉山さんは首を振る。


「ううん、いいの。...ならさっ」


 彼女は身を乗り出してきた。意を決したような顔つきに、思わず息をむ。


「今度......」

「...今度?」


「今度、私と——————あ」


 続きの言葉を待っていると、葉山さんは話を中断して慌てて前を向いた。月見里さんが書き終えて、戻ってきていたのだった。彼女が一体何を言おうとしたのか、結局分からずじまいになってしまったのである。


「...あまり私以外の女子と話さないでもらえる?」


 座ってから、俺の耳元で不服そうにささやく。くそ、何かイイ感じの雰囲気だったのに...。


「なんでだよ...もしかしていてるとか」


 恨めしげに少し意地悪く言うと、月見里さんは呆れたというように肩をすくめた。


「馬鹿なこと言わないで頂戴ちょうだい...私の計画に支障が出るからよ」

 

 なんだよ、嫉妬しっとしてるとかだったら可愛かったのに。


 しかし、葉山はやま真玲まれいか......。


 明るいし性格も良さそうだし、どっかの誰かさんとは大違いである。あと何より可愛い。それに、さっきの思わせぶりな態度。みの童貞だったら間違いなく好きになって告白してフラれているだろう。俺はレジェンド童貞なのでそんなにちょろくないけど。


 そんなことを考えながら前の席でせわしなく揺れるポニーテールを眺めていると、隣で月見里さんは面白くなさそうにむくれていた。

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