期末試験とアルバイト ②

 金曜日の放課後、試験前でいつものように図書室に集まっていた。


「ねぇ、明日のバイトは何時からなの?」


 試験勉強を始めて少ししか時間が経っていないが、志保の集中力が切れる始めたのか、気になって仕方ない表情で俺に話しかける。


「朝の八時からだ……」


 俺の返事を聞いて志保は何かを考えているようだった。まさか開店から来る気なのかと心配になったが問題なかった。


「そんな早い時間からは行かないわよ。もう志保は相変わらず集中力が足りないわよ」


 美影が少し呆れ気味に会話に加わってきた。俺は苦笑いしながら美影を見て「……そうだな」と頷くと志保は拗ねた顔をして美影を見ていた。


「裏切り者……」


 志保はぼやいていたが、美影が気にしないで勉強の続きをするよと俺に合図をする。そんな美影の様子を見て志保はニヤッと笑ってワザと俺に聞こえるように声で話す。


「でも美影は私よりも楽しみにしていたじゃないの?」


 俺が志保の話に反応すると、美影は顔を真っ赤にして教科書に顔を埋めた。


「へぇ、そうなんだこの前は俺に小言を言ってたけど」


 美影の方を見ると俺から視線を背けて知らん顔をしている。志保はここぞとばかりに笑みを浮かべながら美影の事を話した。


「だって、私がお店の場所を知らないって言ったら、すぐに大仏さんに行き方を聞いていたよね」

「……そうなんだ」


 聞いた奴がマズイと思わず顔に出そうになったが黙っておいた。早かれ遅かれ大仏から嫌味の一つは言ってくるだろう……


「聞いてきた後に私に嬉しそうに一緒に行こうよって、すごく張り切っていたよね……」


 美影は更に顔を赤くして突然立ち上がった。


「ち、ちょっと教室に忘れた物したから取りに行ってくる!」


 そのまま飛び出すように美影は図書室から出て行った。


「志保……ちょっとばかりからかい過ぎじゃないか?」


 飛び出して行った美影の様子が心配になったが、志保はあまり気にした様子ではなかった。


「いいのよ、だって全部本当の事だし、だいたい時間を気にしていたのは美影だよ一番行きたがっているのも」

「でも……」

「大丈夫だよ、そのうちしれっと戻って来るから」


 俺の心配を余所に志保は問題を解き始めた。美影の普段と違う一面だったので俺は新鮮だったが、付き合いの長い志保には問題ないことなのかもしれない。暫く経って志保の言う通り美影は普段と変わらない顔色で戻って来たが、帰るまでいつもより口数は少なかった。だからと言って機嫌が悪いということはなかった。


 翌日、約束の時間通りお店に行くとマスターが「すまんなぁ」と言いながら出迎えてくれた。

 これまで夏休みや春休みに何度か働いているので要領は分かっている。店内を清掃したり準備をして開店の時間になった。

 さすがに美影達は昨日の事があったから開店時間から来ることはなかったが、常連客はぼちぼちやって来てそれなりに忙しかった。中には近所の知り合いが来て「珍しいね」と声をかけられたりしてホッとする場面もあった。ほとんどのお客さんが常連なので仕事も順調にこなして、美影達が来るのをつい忘れていた頃だった。


「いらっしゃいませ!」


 愛想よくお店の入り口に向かうと、見慣れた女子二人が待っていた。普段見慣れない私服姿なので、一瞬分からなかったが志保の元気のいい声ですぐに気がついた。


「来たよーー」


 志保の隣りには、はにかんだ表情の美影が俯き加減に立っている。まだ昨日の事を引きずっているのかと俺は苦笑いをした。

 さっき片付けて準備した窓ぎわの席に二人を案内した。お冷やとメニュー表を渡して、注文が決まったら呼んでくれと言って二人の所を離れた。その間、他の接客をしながら二人の様子を伺っていたが、メニューを見ながら二人は楽しそうに注文を決めているようだった。

 志保は普段と変わらずリラックスした感じだったが美影は何となく緊張しているというか表情が硬いような気がした。何組がの接客をしていたら、注文が決まったようで志保が呼んでいる。


「決まったよ、私はこのセットね、それで美影は」

「わ、私はこのセットでお願い……」


 志保は普段通りだが、何故か美影は視線を逸らしている。まだ気にしているのだろうか、そこまで気にすることなのかと思っていたが実際は違っていた。

 丁度お昼前という事もあり少し忙しかったのであまり美影達に構っていられなかった。接客をしなが美影達の様子を見ていると、お互いリラックスしてきたのかいつもの二人と変わらない様子だ。目が合うと志保は、嬉しそうな表情で手を振っていたが美影は俯いて気恥ずかしそうにしている。

 暫くして二人が注文したメニューが出来上がりテーブルに持って行くと、志保は待ってましたという表情をしていたが、相変わらず美影は視線を逸らしていた。


「お待たせいたしました」


 それぞれのセットをテーブルにならべるが、美影は俯いたままでいる。


「なぁ志保、まだ美影は昨日の事を気にしているのか?」


 美影に聞こえないよに小声で志保に尋ねると、突然志保はプッと吹きながら笑い出した。


「もう違うよ……」

「えっ⁉︎ だってさっきからずっと目を合わせてくれないぞ」

「それは……」


 志保は俯いている美影を目で追って笑っている。俺が美影の様子を伺うと、美影は恥ずかしそうな表情をしたまま俯いている。


「ん……?」

「由規、あんまり見つめたらダメだよ」

「……何でだよ」


 俺の頭の中は「?」がいっぱいに並び始める。志保が訳を話そうとすると美影は必死に志保を静止しようとしたが出来なかった。


「美影が由規の姿がカッコいいって、見惚れていたのよ、それで目が合ったりすると恥ずかしいから俯いたりしてるのよ……」

「ただのお店の制服着てるだけだよ……」


 そう言ったが美影の顔はみるみる真っ赤になって、また俯いてしまった。制服と言っても白のシャツにカフェエプロンをして何処の喫茶店でもいそうな感じの格好だ。


「すみません……」


 他のお客さんが呼んでいるので、美影は俯いたままなので志保に一言を言って離れて接客に向かった。

 何組か接客をして少し落ち着いた頃には、美影達が食べ終わり、何か楽しそうに会話をしていた。俺も少し手が空いたので美影達の所へ行こうしたら、マスターがトレーに何かを載せて背後をついてきていた。


「どうぞ、今日のおすすめのケーキだよ」


 俺が話し出す前に嬉しそうな表情でマスターがトレーに載っていたケーキをテーブルに並べていた。


「あっ、また……奥さんに叱られますよ」

「いいんだよ、それよりお前はモテるなぁ、またこんなに可愛い子を連れてきて……」


 俺は慌ててマスターの口を塞ぐと話がややこしくなりそうなのでカウンターに戻るように急いで背中を押した。しかしマスターの言葉に志保がすぐに気が付いたようだった。

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