期末試験とアルバイト ①

 試験週間前の部活が終わり、美影と志保と校門の所まで歩いて自転車を押していた。美影と志保は徒歩で通学している。


「ねぇ、また期末試験も一緒にするの?」


 志保が不意に聞いてきたが、特に何も決めていなかったのでとりあえず頷いて答えたが、週末に用事があるのを思い出した。だがそれを説明するのを躊躇してしまう。


「放課後だろう、別にいいけど、ただ……」

「えっ、何か用事があるの?」


 すぐに反応したのが志保ではなく美影だったので驚いた。美影は予想外みたいな顔をしているのを見て志保は俺をからかおうとして変な勘繰りをしてきた。


「私達に言えない、何か怪し事でもあるの?」

「そんな事はないけど……」


 俺はただ一から説明するのが面倒くさくて迷っていただけだったのだが、タイミングよく皓太が通りかかり話しかけてきた。


「おう宮瀬、どうした?」

「あっ、そうだ皓太も一緒に試験勉強しないか? いいだろう」


 話題を変えるのにはちょうどよかったので、二人の顔色を窺うと志保は「いいよ」と笑顔でいつもと変わらない表情だったのに対して美影は何故か黙って微妙な表情を浮かべている。

 しかし皓太は二人の顔色を見る事なく哀しそうな顔で首を横に振る。


「ああぁ、ダメなんだよな……」

「えっ、何でだよ」

「いや……学校では志織がいて、自宅では未夢が待ち構えているから……」


 そう言ってうんざりした表情を浮かべて皓太が話すので、ある程度事情を知っている俺は気の毒そうに皓太の顔を見ていた。


「でもそれって鵜崎くんが勉強しないし、成績が悪いからでしょう、仕方ないわよ」


 志保が呆れた顔で会話に割り込んできたがあまりにストレートな発言でもう一度皓太の顔を見ると落ち込んだ表情をしている。


(志保が言うなよ……)


 思わず心の声が表に出そうになったが、志保は更に追い討ちをかける。


「だってこの前、志織が半分呆れて言ってたよ、本当に勉強しないって、どうしたらいいか聞いてきたよ」

「そ、そうなのか……でもお前中学の時はちゃんと勉強してたよな」


 俺は皓太の顔を見て尋ねたが志保は他人事のように話している。


(しかし聞く相手を間違っているだろう、志保だって勉強しないのに……)


 本当は志保にツッコミたかったが、それよりも皓太が気になって見てみるとかなり落ち込んだように項垂れていた。


(高校に入って何があったんだよ皓太……)


 これ以上話題にするのはあまりに皓太が可哀想だ。運良く校門の手前まで来ていたので俺は自転車に跨り、皓太にも自転車に乗るように合図をする。


「じゃまた明日」


 咄嗟に俺が志保と美影に向かって声をかけると、二人は慌てて「あぁ――逃げるな」と声をあげる。二人の声を背にして自転車を漕いでいたが、多分明日は朝から責められるだろうなぁとひとりぼやいていた。


 翌日は朝から予想通り俺が登校するのを待ち構えていて、朝イチから二人に責められた。志保から言われるのはいつもの事だが、珍しく美影も一緒になって言ってきたのは意外だった。


「鵜崎くんの件は分かったから、由規の用事を教えなさいよ」

「朝からそんな顔をしたらダメだよ」


 二人ともムスッとした顔をして俺を見ていので少し茶化すように返事をすると今度は怒ったような表情になって、特に美影は目がマジでヤバかった。


「……ごめんなさい」


 これ以上は拙いと思い素直に頭を下げて謝った。


「もう……最初から話せばいいのに……」


 美影は大きく息を吐き呆れた表情をしているので、とりあえずは拙い状況は回避出来た。もう諦めて初めから説明するしかないようだ。

 簡単に言えばバイトがあるからという話なのだが、このバイトは学校に許可を貰っていないのであまり人に言いたくないのだ。アルバイトとの話が漏れてはいけないので手短に説明をして手伝いという表現を使うことにした。


「家の近所にある知り合いのお店で手伝いがあるんだよ」


 興味津々といった感じで美影と志保が話を聞いていたが、たまたま通りかかった大仏が何故か割り込んできた。


「あっ、それ私が断ったやつだ」

「はあ、お前か犯人は……マスターが泣きついてきてお願いするから断れなかったんだぞ」

「だって急用が出来んだから仕方ないでしょ」


 急に俺と大仏の会話になり、聞いていた美影達は不思議そうな顔している。


「何で大仏さんが関係あるの?」


 美影が訳わからないという顔で聞いてきた。


「ええっと、私も知り合いなのよ、お店のマスターと」


 正確に言えば俺と大仏の親がね……と付け加えようとしたが話が長くなりそうなので止めた。


「そうなの……」


 まだ美影の頭の中では多分整理ができていないのだろうそんな顔をしている。


「今度はサボるなよ」

「はいはい、分かったわよ」


 やれやれと表情が出そうな勢いで大仏に言うと軽い返事をして自分の席に戻って行った。


(アイツ、ワザとここに来たな……話の内容が分かっていたのか)


 その後、志保はどこのお店のことなのか分かったみたいで、「あそこのお店ね」と独り言を言っていた。しかし美影はまだクエスチョンマークが頭の上に出ているようだ。

 結局、美影には後から詳しく説明をしてやっと納得してくれたが、「バイトはダメなんじゃない」と真面目な顔をして言われた。


(だから言いたくなかっただよなぁ……)


 もう一度、バイトじゃなくて手伝いだよと釘を刺しておいたが、根が真面目なのであまり納得していなかった。逆に志保は、楽しそうに何時から店にいるのかと聞いたり奢ってといったりして来る気満々のようだ。

 一応お客さんだから来るなよとは直接言えないので、回りくどく来ないように言ってみたがムダなような気がした。試験週間だから長居はしないだろとあまり深く考えていなかった。美影は小言を言っていたが多分志保と一緒に来るだろ……そう予想していた。

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