一年生との試合
今日は期末試験週間前の最後の部活になる。明日から期末試験が終わるまで部活が休みなのだが、その後はすぐに一年生大会がある。直接的には二年生の俺には関係ないが後輩達の大事な試合だ。
「という訳で、残りの時間は一年と試合をしよう」
キャプテン長山の突然の提案だったが、反対する理由もないので全員一致で試合をする事になった。試合形式でするのは新しいチームになってから初めてする事になる。
一年生チームは顧問の豊嶋先生が決めているが、二年生チームは「自分達で決めろ」と先生から言われて長山がスタメンを決めている。でも決めるにも二年生は俺をいれても七人しかいないので自然と決まってしまうのだ。
「あと二人は交代で出るか?」
俺と長山と皓太はこれまでの先輩達との大会に出場経験があるが、あとの四人は練習試合しか出た事がないのだ。このメンバーで試合となると昨年の一年生大会以来になるのだ。
「さて、一年生のチームは?」
長山と皓太が一年生チームのスタメンを見て頷いていた。
「まぁ妥当なとこだろうな……」
一年生は、フォワードの大和とガードの坂下が中心のようだが、この二人はこれから十分レギュラーになる実力があり要注意だ。ちなみにガードの坂下は俺の中学の後輩で、俺達が引退してからは後輩達チームの中心メンバーの一人だった。
それぞれがビブスを着用していよいよ試合が始まった。練習試合と言っても後輩となのでそこまで厳しい当たりはしないつもりだ。
試合開始から俺達二年生チームが攻める。皓太がボールを運び攻撃を組み立て指示を出す。俺と長山が内側でパスをもらいシュートを決めていき着実に得点を重ねた。
まだ一年生はディフェンスが精一杯でオフェンスはバラバラな状態だったので、豊嶋先生が一年生のチームに細かい指示を出すと動きが変わってきた。皓太には坂下がついて、俺には大和がついて、長山には二人がかりでついている。あとの二人は割とフリーに近い状況になったが、その先生の指示がハマる。
次第にオフェンスの流れが悪くなってきて、ディフェンスの時間が増えてきた。幸にも一年生チームのシュートの精度が悪いので得点はそこまで決められなかった。
「これはいかんな……」
「そうだな、ここまでハッキリとやられるとな……」
長山と皓太がインターバルに入る前に厳しそうな顔をして唸っていて、俺も隣で同意しながら頷いていた。
「橘田先輩達がいた頃は考えてなかったからな、仮に大和と坂下が入ってもなかなか厳しいぞ、このままだと」
長山に向かってそう言うと一層難しい顔をして頷いていたが、次の大会までもう少し時間があるので、それまでにチームの底上げをするしかない。俺達の意見は一致していた。
その後も自力に勝る俺達二年生チームがリードしたままだったが、試合に慣れてきたのか一年生チームも動きが良くなってきて予想外のパスやシュートを決めたりと手応えのある感じになってきた。
「ねじ伏せてやろうと思ったけど、甘かった……」
若干、息を切らせながら皓太がドリブルをつき攻撃に行く前に話しかけてきた。
「ハーフタイムまでもう少しだ、パスを頼むぞ」
そう言うと皓太はニヤッと笑って頷いていた。ゴール下に近づくと大和がしっかりとマークにつき、結構な強めな当たりでくる。
(こいつらマジだな……)
お互いプレッシャーを与えていたが、ボールを持っていり皓太と一瞬目が合って、俺はスッと力を抜き隙を作って大和が油断した瞬間に背後へ入ると皓太から絶妙な鋭いパスが入ってきた。
(さすがだな、あの一瞬のアイコンタクトで来るからな)
シュートの態勢に入ろうとしたが、大和もすぐに対応してブロックに来る。背の高さは余り変わらないのでこのままだとシュートが打てない。
俺は瞬時にタイミングをずらして後ろ側に傾けてジャンプして大和の手が届かない位置でシュートを放つ。ボールはゴールに綺麗に吸い込まれる。
着地を決めれば問題なかったのだ、バランスを崩して倒れ込んでしまった。
「痛え――」
同じタイミングでブザーが鳴ってハーフタイムになった。
皆んなが心配そうにやってくる。倒れたものの本当はそこまで痛くはなかったのだが、思わず言ってしまった。少し恥ずかしかったが皆んなに大丈夫だと合図をして安心させた。
皓太が「大丈夫か?」と起こしてくれたが、大袈裟だなという顔はしている。近くで見ていたので状況がよく分かっている。
「だ、大丈夫なの?」
その中で血相を変えた美影が冷却スプレーを持って走ってきた。その様子を見ていた皓太が吹き出すように笑う。
「あぁ、山内、後は頼んだぞ――」
笑いながら皓太は美影と入れ替わるようにコートの外に出て行った。
(ちょっとオーバーに言い過ぎたな……)
少し反省をしながら、大丈夫だと説明をするが美影はなかなか引き下がらない。仕方がないので持ってきた冷却スプレーだけを倒れた時に打った部分にしてもらった。ハーフタイムの後も試合に出場したが、美影は心配そうな顔をして見守っていた。
「絶対に無理したらダメだからね!」
強い口調で美影に言われて試合が終わるまで何度も言われたが、申し訳ない気持ちになったので後でもう一度説明して謝っておくことにした。
試合はそのままの流れが変わる事なく二年生チームが勝利したが、予想以上に疲れて課題がはっきりとした試合だった。試合が終わった後にも豊嶋先生からも指摘されて期末試験明けからは練習がよりハードになるような気がした。
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