新たな気持ち ①

 美影からメッセージが届いてのだが、気が付くのが遅くなって返事を送っていなかった。メッセージは帰宅した頃に届いてた。もう二時間以上経ったいたので、返事をしないといけないと焦っていると美影本人から電話がかかってきた。


「もしもし宮瀬くん、大丈夫なの?」

「えっ、な、なに? ど、どういうこと?」


 慌てて電話に出るといきなり心配そうな声で美影が喋るので驚いて噛んでしまう。


「だって、メッセージを送ってもなかなか返事が来ないし、やっぱり落ち込んでいるのかなと思って、返事が出来ないくらいに……」


 美影の話を聞いて思わず笑いそうになったが、心配してくれているのだから悪いなと我慢をした。もう一度、美影からのメッセージを確認したら帰宅直後以外にもその後三件も入っていた。


「あぁ、ごめんごめん、ついさっき気が付いたんだよ」

「あれ、何か普通だね……私の勘違いだったかな」


 いつもと変わらない口調で落ち込んだ様子が無い事に気が付いたみたいで美影は少し恥ずかしそうに答えた。


「心配ないよ、もう前から知っていたしね」

「やっぱり……知っていたんだぁ」

「うん、ごめんね。先輩より先に言うのはマズイかなと思って……」

「宮瀬くん、謝ってばかりだねさっきから、ふふふっ……」


 もしかしたら美影が怒るかなと思っていので、予想に反して可愛らしく笑っていたので安心した。


「帰り間際にも皓太からも同じ様に聞かれたよ、良かったのかって……そんなに俺がキャプテンをやりたそうな感じだったかなぁ」

「そんな事はないけど、でも宮瀬くんがやるのが自然な流れような気がしていたから」

「そうかなぁ……」

「うん、私は宮瀬キャプテンを見てみたかったよ。だって中学時代は間近で見れなかったからね」


 美影の声は残念そうだったが、俺としては嫌な気にはならなかったが何か申し訳ないような気持ちになった。ただ立場が違うだけでチームは引っ張っていかないといけないのだから、これまで以上に頑張らないといけないのは理解している。


「でもキャプテンじゃなくてもやる事は一緒だから変わらないよ」

「そうだね、私もしっかりとサポートするね」


 電話越しだか嬉しそうな笑顔の美影が思い浮かんできた。その後もう少し話をして時間も遅くなったので「また明日」と言って電話を終わった。


(みんな心配してくれてありがたいけど……)


 胸の中で一抹の不安があった。先輩とバスケがしたいと選んでこの学校に来たが、先輩は引退してもういなくなってしまった。今はまだ実感が無いけど、もしこの先何かあって気持ちが折れそうになった時に支えになるような何かががあるのか心配になった。


(中学時代みたいに……)


 強引でもキャプテンをやらせてもらっていたのが楽だったかもしれないと考えたが、今更言っても遅いし変更も出来ない。もちろん先輩の考えなのだから意見出来なかったし、これは俺自身がどうにかしないといけない事だ……


 翌日、朝からあまり調子が良くなかった。あれからいろいろと考えいたら気が重たくなっていた。気分でも変えようと天気が良かったので昼休みに何となく中庭を歩いていると声をかけられた。


「あっ、先輩!」

「相変わらず元気だな」


 重たい気分を明るくするような声を聞いてすぐに分かった。恵里は何人かの友達と話をしていたようで偶然通りかかった俺に気が付いたみたいだ。

 会話をしていた友達の中でもやはり目立つ存在で、この前もクラスメイトに「何で校内でも一、二位を争う美人と普通に話してるんだ」と妬みを言われた。


「今度は先輩、キャプテンじゃないですね。残念ですよ……でも大丈夫ですか?」

「えっ、何で……」


 恵里の言葉はこれまでの皓太や美影が言う事と違う意味のように聞こえた。中学時代のバスケをしているところをなんだかんだ一番近くで見ていたのは恵里かもしれない。


「だって三年の先輩が引退したし、宮瀬センパイは責任感が強いからいろいろと背負うじゃないですか、今度はキャプテンじゃなくて微妙な立場で宙ぶらりんな感じで悩んだりするんじゃないかな」

「……」

「それに、心の中の目標が無くなったんじゃないですか?」

「うっ……」


 やはり中学時代に近くで見ていた訳ではない、よく分かっているので、黙って聞く事しか出来ない。


「でももう私は助けませんよ、だって一度振られていますからね……もし今大事に想っている人がいるんだったらその人に見てもらうぐらいの気持ちで頑張ればいいじゃないですか? そうすればセンパイなら中学時代みたいに乗り切れると思いますよ」


 微笑みながら恵里が俺の顔を見ているが、昔の事を思い出して何となく恥ずかしくて俺は視線をはぐらかしていた。


「……」

「本当はその大事な人が私だったらいいんだけどなぁ」


 イタズラぽく笑う恵里だが、一瞬だけ寂しそうな顔をしたように見えた。


(もしかして断った事を……そんな事はない、俺の思い過ごしだろう)


 そう思っていたら直ぐに恵里が冗談なのか本気なのか分からない感じで聞いてきた。


「でもセンパイにはいるじゃないですか、山内先輩が……」


 過去の事を思い出し油断していたので、恵里の言葉に驚いてしまった。


「ええ、いや、それは……」

「あれ違うんですか、まさかまだあの人の事を……前に言いましたよね、センパイどうなんですか?」


 慌てた表情の俺を見て恵里は若干呆れた顔をして嘆息をした。返事に困り黙っていると恵里は苦笑いをする。


「しょうがないですね、センパイは本当に……悩んで下さい」

「……」

「でも私は今いる身近な人を大事にしてあげるのがいいと思いますよ、これ以上は何にも言いません」


 少し冷めたような口調で言うと向きを変えて恵里は「またね、センパイ」手を振って笑顔で恵里の友達がいる所へ戻って行った。

 俺はその場に立ち尽くしたまま恵里の後姿を見ていることしか出来なかった。


(さすがに呆れられるよな……身近な人か……)


 恵里に話しかけた時と内容が変わってしまったような気がしたが、色々な意味で変わるのにはいいタイミングなのかもしれない。

 中庭から見上げると空は晴れて梅雨に入ったというのに綺麗な青空をしていた。俺の心もこんな感じで清々しくならないのかなぁと思うと何か情けなくなってきた。

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