県大会と先輩 ④

 皓太の活躍で、相手チームに傾きかけていた流れが戻ってきて得点さは二点差だがリードした形で第三Qを終えた。


「凄かったな、皓太」

「う〜ん、試合勘とかは全然駄目だ、さすがに高校レベルだとシンドイなぁ」


 皓太の返事が意外だったので驚いた。


「そうなのか……もっと自分を褒めても良さそうだけど」


 皓太は首を横に振って否定している。


「短い時間だから何とかなるけど、早く先輩には戻ってきて貰わないと……」


 そう言って皓太は心配そうに橘田先輩の様子を窺っていた。俺も同じように先輩の様子を見ると長山に何かアドバイスをしている。

 俺達の視線に先輩が気が付いたみたいでこっちにやって来たが、インターバルなので時間があまりある訳では無い。


「宮瀬、鵜崎、スマンな。残り五分のタイミングで入るから、その時間なら全力でいけるはずだ」


 皓太が直ぐに先輩の言葉に反応して答えた。


「分かりました。あと五分ですね、何とかやってみます」


 そう言って皓太がコッチを見て大きく頷くので、俺も同じように頷くと、先輩が頭を下げて「頼んだぞ」と一言だけ残して俺達を送り出した。


 第四Qが始まりすぐに相手チームにシュートを決められて同点になってしまった。


「慌てなくても大丈夫、時間はまだある!」


 まだ同点になっただけなので、チームメイトに声をかけて鼓舞をする。その後は点を取ったら取られる息もつかせぬ展開が続いた。

 皓太は、本人が言っていた通りにやはりブランクがあるようでなかなか思うようにいかないところもあったが、十分過ぎる働きで予定通り残り五分で橘田先輩と交代した。

 先輩が交代した後も同じような展開が続き残り時間も僅かになった。疲労がピークになり動きも鈍くなってきて時間もあと一分を切り延長も覚悟をし始めていた時に最後のチャンスがきた。

 相手のミスから橘田先輩がボールをカットしてそのままドリブルからポストに入っている長山にパスを出す。長山がゴールを窺うけど相手のマークが厳しくて無理そうだ。

 俺が相手のマークの一瞬の隙をつきゴール下でフリーになり長山が気が付き目が合う。パスが来ると思ったら、俺ではなくスリーポイントラインにいる橘田先輩にパスが行く。

 相手チームは俺に意識がいっていたので橘田先輩はほぼノーマーク状態だ。残り時間も三十秒を切っている、相手にボールを渡す訳にはいかないので、俺は慌ててリバウンドの態勢に入りポジションとる。

 相手チームも慌てて先輩のシュートを止めに行くが間に合わない、綺麗なフォームでスリーポイントシュートを放ち先輩は自信たっぷりな顔をしている。

 先輩が放ったシュートを見てタイミングを取っていたが、ボールは綺麗な弧を描きゴールに吸い込まれる。

 先輩は、小さくガッツポーズをしている。俺も「よっしゃ!」と声を上げたてすぐにディフェンスにはいり、相手も急いでパスを出そうとするがスリーポイントのダメージが大きかったみたいだ。

 相手チームは慌ててなかなか前に進めない、もちろん俺達もかなりのプレッシャーを与えている。試合終了のブザーが鳴る。

 チームメイトは皆んな膝に手を突き疲れきった様子だが、一様に笑顔で勝利を喜んでいた。


「良かった……」


 俺自身も疲れきって喜ぶ前に試合が延長に行かなくて安心した。もう体力はほぼ残っていなかった。


(先輩のスリーポイントには驚いた……)


 コートの中央に向かいながら思っていると疲れた表情で先輩が話しかけてきた。


「お疲れさん、良かったな」

「先輩こそ、あの場面でスリーを打ちますか?」


 笑いながら先輩に聞いてみたら、ドヤ顔で答えきた。


「ノーマークだったし、自信もあったからな、あの時間で三点差あれば相手の息の根を止められるだろう」

「……」


(さすがは先輩だ、俺には出来ないぞ)


 返事が出来なかったが、改めて先輩には驚かされてこれまで慕ってきて良かったと思った。


 試合終了後の挨拶が終わりベンチに戻るとチームメイトは盛り上がっていて、美影と志保も笑顔で喜んで迎えてくれた。


「凄かったよ‼︎ でも本当に勝って良かったね」


 美影が嬉しそうな表情でタオルを渡してくれた。タオルで汗を拭きながら移動する為に準備を始めながら笑顔で答える。


「あぁ、本当に勝てて良かったよ。これでまた明日先輩達と試合が出来るから……」


 この為にこの学校を選んだ事を改めて思い出した。今日みたいな試合が先輩としたくてここに来たのだからとても嬉しかったし楽しかった。


「どうしたの? また一人で笑って」


 美影が俺の顔を見ながら、不思議そうにしている。


「いや、この学校に来て良かったなぁと思ってね、先輩達と一緒にバスケが出来て……」

「そうね、でも……それだけかな?」


 微笑みながら美影が言っていたが、何故か少し不満そうな顔だ。


「えっ、あっ、そう、そうだなチームメイトも……」


 焦って曖昧な返事をすると、美影は更に不満そうに俺の顔をジッと見つめている。


「も、もちろん美影もだよ……」


 違った汗が出て来そうになって答えると美影は満足そうな表情をしていた。隣にいた鵜崎は少し呆れた顔して小さく笑っていた。


(まぁ、美影や志保がいなかったらここに居なかったかもしれないな)


 美影の笑みを見てホッとしながらこれまでの事を考えていたが、まだ明日も試合があるし俺はまだ引退する訳でもない。何でこんなに感慨深げにしてるんだと思ったらまた笑い出してしまった。


「変な宮瀬くん……」


 俺の顔を見て呟くように美影が言って、他の片付けを手伝い始めようとしていた。


 翌日、二回戦があって優勝候補の私立S高との試合だった。試合は、前日の接戦がウソのようにあっさりと敗れてしまった。さすがは優勝候補だけあってなかなか歯が立たなかった。

 試合直後は悔しかったが、スッキリした表情の橘田先輩から「今度は宮瀬、頼んだぞ」と言われて少しだけ泣きそうになったが、元気よく「はい!」と返事をした。

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