県大会と先輩 ③
キャプテンの橘田先輩が先制のシュートを決めたのでチームが一気に活気付いた。
相手ボールから再開されたが、相手チームのパスミスをガードの先輩がカットして再びマイボールになった。橘田先輩にボールが渡り長山はハイポストに入り、俺はゴール下を伺っている。
橘田先輩からポストの長山にパスが入り、先輩が中に走り込み長山がマークをかわして先輩にボールを戻す。先輩がシュートを打とうとしたがフェィクでかわすと、ゴール下にいた俺に短くパスをする。
パスを受けた俺は相手を素早くかわしてゴール下でシュートを打ち確実に決める。試合開始から4点をリードして更に勢いがつき、そのまま第一Qを有利に進めていった。
「宮瀬くん、調子良さそうだね」
「うん、先輩からいいパスが来るからシュートが外せないよ」
第Q一が終わり、インターバルになった。ベンチに戻ると笑顔で美影が話しかけてきた。ベンチもいい感じで盛り上がっているようだ。
「この調子でいけるよね」
「あぁ、そうだな……でも県大会まで来たチームだから油断は出来ない」
「そうだね、でも今日の宮瀬くんとキャプテンなら大丈夫だよ」
「ありがとう……よし、頑張ってきますか!」
タオルで汗を拭き立ち上がると、美影は笑顔で「うん」と大きく頷いていた。
第二Qもそのままの勢いを継続して得点を上げていたが、相手のH商業も尻上がりに攻撃が良くなり得点差は思ったよりも広がらなかった。
ハーフタイムになり得点差は第一Qの得点差のままだった。
「ふぅ、さすがだな……」
「そうですね……」
橘田先輩とベンチに戻りながら話していたが、先輩は試合開始から飛ばしていたのでかなり疲労しているように見えた。このハーフタイムでどれだけ先輩の体力が回復するか少し不安だった。
ベンチに座り込むと、美影がいつものように俺専用のドリンクを持ってきたくれた。
「いつもありがとう」
「どういたしまして……でも大丈夫?」
美影は心配そうな表情をしている。先輩の疲労具合がやはり気になるみたいで先輩の様子を見ていた。
「うん。かなり疲れているみたいだけど、先輩ならきっと何とかするよ」
心配させない様に明るく答えたが、本当は俺もかなり心配している。でも俺がそう言ったので、美影は少し安心したのか明るい表情になった。
「そうね、宮瀬くんがいるから大丈夫だよね」
ちょっとだけプレッシャーになったが、俺は大きく頷き「任せておけ」と言った。
美影は先輩に呼ばれて俺の所から離れて行ったので、目の前でシュートの練習をしていた先輩と同じポジションの
「皓太、心構えしておけよ!」
「あぁ、そうだな、ヤバそうだな……」
皓太もそう感じていたようで、厳しい顔つきをしていた。皓太は俺が部活に復帰した時に入部してきた。
同じ中学で部活には入っていなかったが、かつては名のあるプレイヤーだった。中学時代は散々勧誘して入部してくれなかったが、ある約束で高校の途中でやっと入部してくれた。
いかんせんブランクが長かったのでこれまで試合に出場する機会が無かった。でも皓太はセンスの固まりみたいなので、もしこの後試合に出る事があっても問題無いと俺は思っている。
「その時は頼んだぞ」
俺が一言周りに聞こえないように伝えて、皓太も小さく頷いていた。皓太の表情もいつもより気合が入っているようだった。
ハーフタイムが終了して試合が再開される。心配していた先輩の様子は思っていたよりも体力が回復していたみたいだった。
「よ――し、いくぞ」
再び気合を入れて、ディフェンスに戻る。橘田先輩と目が合って大丈夫だと合図を送ってくれた。
第三Qは、一進一退の攻防で、取られた取り返す展開が続いていた。やはり橘田先輩の負担はかなり重いようで、半分くらいの時間で再び疲労の色が見えてきた。それと同時に点差も無くなり同点になっていた。
ベンチでは、皓太が呼ばれたみたいで交代の準備をしている。相手チームのシュートが決まりこの試合で初めてリードを許してしまった。
「すまないな……」
「なんとか死守しますから、最後には戻ってきて下さいよ」
疲れた表情の橘田先輩は俺の肩を叩きながら頷いてくれた。
入れ替わる様に皓太が元気よく入ってきた。試合が再開されて、エンドから俺が皓太にパスを出す。
「宮瀬、先ずはこの一本を決めてすぐに追いつくぞ!」
「あぁ、分かってる」
皓太がゆっくりドリブルで上がる間に、相手のゴールに素早く向かう。
(皓太は交代したばかりだけど……)
多少、心配はあった。この厳しい試合展開で途中から入るのはさすがの皓太でも難しいと思っていた。
しかしそんな心配は不要だった。あっという間に、皓太は相手ディフェンスを追い抜き長山にパスを出して、自ら切り込み再びパスをもらい相手ディフェンスをかわしてシュートを放つ。
俺はリバウンドの態勢に入ろうとしたが、飛ぶ必要が無かった。皓太が放ったボールがリングに当たる事無くキレイに決まり、小さくガッツポーズをしてすぐにディフェンスに入る。
相手ボールから始まったがパスが中途半端になり、皓太がすぐに反応してボールをカットしてマイボールにしてしまう。
「ナイスカット、皓太!」
たまたまフリーになっていた俺が声をかけると、鋭くパスが来る。ゴールに素早くドリブルで楽々シュートを決めて再びリードを奪った。
皓太が交代して僅かな時間で流れが再び俺達のチームになってきた。
(やっぱり凄い奴だな……中学の時に一緒に出来ていたらな……)
俺が驚いた顔で皓太を見ていたら「どうした?」とあっさり言うので、更に驚いて笑ってしまった。
長山や先輩達も一様に驚いた表情でベンチも大騒ぎになっている。俺以外のチームメイトは皓太が上手いのが分かっていたが、ここまでとは思っていなかったみたいだ。
「さぁ、しっかりディフェンスだ!」
俺がチームメイトに声をかけて気合いを入れて、息を吹き返す事が出来た。
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