勉強会 ①

 また一週間が始まる……と思いながら、登校してから席に座って腕を枕にして寝ていた。

 昨日は遅くに絢と電話をした後、色んな事を考えていたらなかなか寝付けなくて、今朝は最悪の寝起きだった。


「おはよう、宮瀬くん」


 聴き慣れた声がするので顔を上げ声がした方向を見ると美影が立っていた。顔を見た瞬間、安心したようなしないような変な感じだった。


「美影か、おはよう……」


 無愛想な返事をしたが、心の中では大仏じゃなくて良かったと安心していた。


「あぁ、なんか気持ちがこもってないよ」


 少し頬を膨らまして美影は不機嫌そうな顔をしている。あまり意識がはっきりしていなかったので、美影の不機嫌そうな顔に気が付き慌てて言い訳をした。


「そ、そんなことないぞ、ただちょっとだけ寝不足なだけだよ」


 目を擦りながら寝不足をアピールすると、美影はその様子を見てクスッと笑いながら「冗談だよ」と言って、俺は「慌てて損をした」と美影の顔を見て呟いた。

 この時はあまり深く考えてはいなかったが、昨晩の絢との会話で出てきた内容を思い出して話す事にした。


「そう言えば、あや……笹野が美影の事を元気かって心配してたぞ」


 一瞬、いつもの癖で「あや」と言いかけて焦ってしまったがその後は上手いこと誤魔化せたと思っていたが、全然甘かった。美影の表情が一瞬だけ曇ると冷やかな声になる。


「ん……今、あやって……あーちゃんよね。そもそも宮瀬くん」

「は、はい」

「なんであーちゃんが心配してる事を知っているのかなぁ、昨日は部活があったし、何処で聞いたのかな?」


 明らかに美影の表情は疑っている。背筋に緊張が走った状態だけど美影の顔をまともに見れないので話を若干俯き加減で聞いている状態で、額に少し汗をかき始めていた。返事をしようと顔を上げ視線を外して動揺しないようにしたがやはり無理だった。


「えっと……あ……う……」


 しどろもどろな返事になり明らかに動揺しているのが分かってしまっている。美影は動揺している姿が可笑しかったのか、再びクスッと笑うが、先程のようにあまり穏やかな表情ではなかった。


「う〜ん、何か隠し事してるようなぁ……怪しいなぁ……まぁ、いいかなぁ……」


 美影は疑いの視線を向けたままだけど、腹を立てたりしつこく絡んできたりしなかった。俺的には、逆にそれ以上言ってこない美影が内心少し怖いような気がしていた。


(美影はきっと怒らせたらシャレにならんな……)


 そんな事を考えていると、美影は本来の目的を話し始めた。


「この事はまた改めて聞くから、それで来週から試験前で部活がお休みになるでしょう、だから一緒に試験勉強をしない?」

「はい⁉︎」

「だから試験勉強だよ、図書室とかで……」

「あぁ、そういう事か」


 いきなりの美影からの提案で、その前の絢の件がまだ落ち着いてなかったので直ぐに理解出来なかった。さすがの美影も俺の曖昧な返事にイラッときたのかいつもより強めの口調になっていた。


「もう……」

「ごめん……いいよ、来週からだな、ちゃんと準備しとくよ」

「うん、忘れないでよ」


 やっと機嫌が直ったみたいで嬉しそうな顔で美影は席に戻って行った。俺は、美影の後ろ姿を見ながら大きくため息を吐いた。ただでさえ寝不足なのに授業が始まる前から色んな事がありすぎて精神的にクタクタになっていた。


 その後はいつもと変わらない日常だったので何とか乗り切ることが出来た。放課後になり部活が始まる前に志保が何か気になるような表情でやって来た。


「ねえ、由規。朝、美影に何か言ったの?」

「はぁ……今度は何?」


 もちろん志保は今朝の事を把握してないので不思議そうな顔をして俺を見ている。俺はやれやれと思いながら志保の様子を窺っていた。


「今度はって、何かあったの?」

「別に何もないけど……そう、美影が勉強会をしようって誘ってきたからOKしたよ」


 一瞬、朝の一件を最初から話しそうになったが、志保に今朝の内容を話すと厄介な事になりそうな気がしたので、当たり障りがない試験勉強の話をした。


「あぁ、それだね。なるほど……もう美影は……」


 俺の返事を聞いて何か理解したのか志保は独り言のように話して笑みを浮かべていた。何の事か分からず俺は首を傾げて志保の顔を見ていた。


「ごめんごめん、分かったよ」

「俺はよく分からんけど……それで志保も来るのか?」

「うん、行くよ。私は毎回美影と一緒に試験勉強してるから……今回は……」


 志保が意味あり気な言い方をするので、俺は続きが気になる素振りをしたが、「何でもないよ」と言って結局はぐらかされてしまった。


「それにしてもまだ一週間も先なのに、行動が速いわねぇ、なにか美影の気になることがあるのかしら……後で聞いてみよう」


 また志保が独り言のように呟くが、聞いても教えてくれそうにないのでそのまま聞き流した。

 最近は志保が以前ほど絡んでくることが少なくなったような気がする。だからと言って嫌われたという訳でもないみたいで、こうやって普通に会話したり、冗談を言い合ったりして決して仲も悪くない。でも間違いなく志保の俺に対する気持ちはこの前の大会から変わっている。そのきっかけが何だったのか……分からないままだ。

 ぼちぼち時間かなと教室の時計を見て、志保に時間を伝えた。


「そろそろ部活に行かないと……」

「うん、そうね」


 練習開始まで時間もあまりないので志保と急いで部室に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る